三島
◆三島由紀夫『殉教』新潮文庫、1982年4月 短篇集。ここに収められた短篇は、私にはちょっと難しい。面白いと思ったのは「三熊野詣」。興味深いのは「スタア」。 「三熊野詣」は、歌人で国文学者「藤宮先生」と、傍で十年来先生の世話をしている「常子」の物…
◆三島由紀夫『花ざかりの森・憂国』新潮文庫、1968年9月 自選短篇集。「憂国」は、このあいだフィルムが見つかったというニュースがあって、DVD化されるということなので、その前に小説を読んでみた。『憂国』に関しては、三島自身が「三島のよいところ悪い…
◆三島由紀夫『真夏の死』新潮文庫、1970年7月 短篇集。どの短篇も面白い。そのなかでも、「真夏の死」が一番良かった。 三島自身の解説によると、「真夏の死」も実際に起きた事件を人に聞いて、それを基にして書いたという。そして、最後の一行に眼目がある…
◆三島由紀夫『岬にての物語』新潮文庫、1978年11月 表題作を含む13の短篇を集めたもの。主に三島の20代の時の作品。 ここに収められた短篇は、どれもかなり面白い。読みながら、背筋がゾクゾクッとするような恐ろしさを感じる。 特に恐ろしさを感じた作品は…
◆三島由紀夫『愛の疾走』ちくま文庫、1994年3月 三島の恋愛物は、あまり好きではないが、この小説はかなり面白い。解説で、清水義範が「二重構造小説」とこの小説を呼ぶ。というのも、この小説は、普通に「第一章」とか「第二章」といった章立てのほかに、「…
◆三島由紀夫『青の時代』新潮文庫、1971年7月 これは面白い小説だった。三島の小説を読み続けてみて、私は三島の恋愛物の小説(戯曲は別)は好きではないが、この小説のように「社会」や「時代」を批評的に描き出す小説が好きだ。シニシズムというのか、ある…
◆三島由紀夫『熱帯樹』新潮文庫、1986年2月 「熱帯樹」「薔薇と海賊」「白蟻の巣」の3つの戯曲が収められている。この3つの戯曲は、けっこう面白い内容だった。 「熱帯樹」は、息子を操って夫を殺害しようとする母を、逆に殺してしまおうとする兄妹が登場す…
◆三島由紀夫『宴のあと』新潮文庫、1969年7月 有名なプライヴァシー裁判が起きたということで有名な作品。海外でも知られている作品ではないだろうか。 「雪後庵」という料亭の女主人である「福沢かづ」が、かつて大臣を何度も経験したという「野口雄賢」と…
◆三島由紀夫『盗賊』新潮文庫、1954年4月 主人公は、藤村明秀という青年。この青年は、「自己韜晦的性格」を有している。この自己韜晦が、思わぬ「恋愛悲劇」を生み出す物語であると、物語の冒頭で語られている。 極端に自分の感情を秘密にしたがる性格の持…
◆三島由紀夫『獣の戯れ』新潮文庫、1966年7月 この小説は、私には難しい。なんだかよく分からない物語だった。逸平、優子、幸平の三角関係の物語なのだろうか。逸平と優子が夫婦で、幸平は優子と関係を持つ男。幸平は、逸平を「スパナ」で殴る。それがもとで…
◆三島由紀夫『美徳のよろめき』新潮文庫、1960年11月 これは「美徳」あるいは「悖徳」といった観念をめぐる「思想小説」というよりは、「身体小説」なのではないか。というのも、ヒロインである「倉越節子」は、あまりにも簡単に妊娠してしまう身体の持ち主…
◆三島由紀夫『鹿鳴館』新潮文庫、1984年12月 三島の戯曲を集めたもの。表題作の「鹿鳴館」のほかに、「只ほど高いものはない」「夜の向日葵」「朝の躑躅」が入っている。 三島の書く台詞が気に入っている。三島の派手な文章は、小説だと時々嫌味に感じたり、…
◆三島由紀夫『女神』新潮文庫、1978年3月 主に昭和20年代に書かれた短篇を集めたもの。 「女神」は、自分の妻を理想の女性にすることに情熱を燃やす夫「周伍」が登場する。その理想は、妻が顔に火傷を負ったために挫折。だが娘「朝子」が妻と同様に美しいこ…
◆三島由紀夫『愛の渇き』新潮文庫、1988年8月 三島の小説は、読みやすいものが多いけど、この小説はやや読みにくかった。一つは、語り手が妙に小難しい言い回しをするためではないだろうか。語り手は、比喩を多用しているのだけど、その比喩がいまいちキレが…
◆三島由紀夫『ラディゲの死』新潮文庫、1980年12月 ラディゲはフランスの作家だ。三島がこの夭折の作家に非常に憧れていたのは有名な話である。私もラディゲが好きだ。文学の研究をしようと決心したのもラディゲが原因だったし。ラディゲを読んでいなかった…
◆三島由紀夫『音楽』新潮文庫、1970年2月 三島の精神分析嫌いは有名だが、この小説はその精神分析を題材にしたものだ。解説のなかで、澁澤龍彦がこの小説を「推理小説のごときサスペンス」を持たせて書かれてあると指摘しているが、これはその通りだと思う。…
◆三島由紀夫『美しい星』新潮文庫、1967年10月 ある日、円盤を目撃したことから、自分は地球人ではなく宇宙人なのだと悟った家族の物語。エンターテイメントの小説ではなく、「純文学」のなかで、こんな荒唐無稽な設定の物語を書いた三島。しかも、けっこう…
◆三島由紀夫『太陽と鉄』中公文庫、1987年11月 この文庫には、「太陽と鉄」と「私の遍歴時代」の二つが収められている。「太陽と鉄」は、三島の身体論すなわち「肉体」という問題を考える際に重要となるエッセイである。 三島はこのエッセイの冒頭で、こんな…
◆三島由紀夫『不道徳教育講座』角川文庫、1967年11月 「不道徳」というタイトル通り、「世間」の常識にあえて反することをやや挑発的に書いた逆説が好きな三島らしいエッセイ。 「教師を内心バカにすべし」「大いにウソをつくべし」「人に迷惑をかけて死ぬべ…
◆三島由紀夫『芸術断想』ちくま文庫、1995年8月 本書のタイトルにもなっている「芸術断想」は、主に三島の観劇記といったもので、演劇や歌舞伎や能について縦横に論じている。ときどき、映画評があったり、オペラがあったり。私は、三島が観た芝居や歌舞伎な…
◆村松剛『三島由紀夫の世界』新潮文庫、1996年11月 村松は、三島とも長年友人関係であったし、家族ぐるみでのつきあいもあったので、なかなか興味深い情報が記されている。また単に三島との知られざる交遊を述べただけではなく、きちんと三島の作品や書簡、…
◆三島由紀夫『私の遍歴時代』ちくま文庫、1995年4月 これは、三島が自分の青春時代や作家としてデビューした頃を振り返ったもの。「わが思春期」というエッセイなどは、ほとんど『仮面の告白』と同じことが書かれてある。これを読んでしまうと、「ああ、なる…
◆三島由紀夫『行動学入門』文春文庫、1974年10月 晩年の三島はしばしば「行動」ということを口にした。この本で、三島が考える「行動」を説明している。 この時期の三島の書いたものを読むのは、かなり息苦しい。というのも、この本でも説かれることだが、「…
◆三島由紀夫『若きサムライのために』文春文庫、1996年11月 三島のあとがきによれば、若い人に向けて、「砕けた表現で、精神や道徳の問題を語ろうとした」ものだという。そのため、とても読みやすい。なんとか自分の考えを若い人に伝えようと、がんばったの…
◆三島由紀夫『永すぎた春』新潮文庫、1960年12月 お昼にテレビでやっているような通俗メロドラマだな、という印象。すごくテンポが速いのだ。出会って、婚約して、だけど結婚式だけはお預け状態の二人。その間、二人にはさまざまな問題が生じて、悩んだりす…
◆ジョン・ネイスン(野口武彦訳)『新版・三島由紀夫―ある評伝―』新潮社、2000年8月 三島の評伝としてはかなり有名でかつ重要な文献。三島研究をするなら、とりあえず目を通すべき文献だろう。 著者は、東大に留学していた日本文学の研究者で、三島の『午後…
◆三島由紀夫『近代能楽集』新潮文庫、1968年3月 三島の中世へのこだわりは、しばしば言及されることだが、「近代能」という試みも、そうした三島のこだわりから生じたことなのだろう。私は演劇は詳しくないし、戯曲を読むのが苦手なので、この方面での三島の…
◆三島由紀夫『三島由紀夫 十代書簡集』新潮文庫、2002年11月 三島が十代のころ、どんなことを考えていたのか。そのことを考える際に、この本はとても役立つだろう。ここでは、三島が文学創作上での師として尊敬していた東文彦宛の書簡が収められている。とて…
◆三島由紀夫『三島由紀夫映画論集成』ワイズ出版、1999年11月 三島の映画論をまとめて読めるので、とても重宝な一冊。三島の映画評は、作家にありがちのたんなる印象論ではなく、きちんと場面分析をしていたりして映画批評のあり方として学べる点は多い。や…
◆佐伯彰一『評伝 三島由紀夫』中公文庫、1988年11月 「評伝」とタイトルのあるけれど、実際は著者の三島論を集めた本だといっていい。だけど、各論はさすがにどれもすばらしくて参考になる。これまで何冊か三島の研究書を読んできたけど、私の理想とする研究…