宇佐美りん『推し、燃ゆ』

■宇佐美りん『推し、燃ゆ』河出書房新社、2020年9月 この小説について、天皇小説という言い方をしているのを見かけたが、いま一つどういうことなのか分からなかった。なので、『JR上野駅公園口』の原武史の解説は、この小説を理解するのに非常に役立った。 …

柳美里『JR上野駅公園口』

■柳美里『JR上野駅公園口』河出文庫、2017年2月 一人の男性を軸に、戦後の日本、東京、福島、天皇、ホームレス、震災、原発などさまざまな歴史が語られる。 天皇制の視点から原武史が解説を書いている。これがすごく分かりやすいので引用しておく。 主人公は…

村上春樹『騎士団長殺し』

■村上春樹『騎士団長殺し』新潮社 理由は分からないが、妻に突然離婚したいと言われた「私」はそれを受け入れる。傷ついた「私」は車で東北地方を転々と旅をする。旅から戻ると、友人を頼り、友人の父親がかつて住んでいた家に住むことになる。そこで、ある…

平野啓一郎『マチネの終わりに』

■平野啓一郎『マチネの終わりに』文春文庫 6章での急激な転換に、ご都合主義的なストーリーを感じて興ざめしてしまう。そもそも主人公二人の設定自体が浮世離れしているのだが、それにも関わらず小難しい芸術論や社会批判(手垢の付いたリベラル思想)を語っ…

杉田俊介『ジョジョ論』

■杉田俊介『ジョジョ論』作品社、2017年7月 時折、著者の自分語りが挿入されるものの、前半はいちおうジョジョ作品の分析がなされていた。ジョジョに興味がある者にとって、参考になる。しかし、後半というか最後の7章から8章あたりになると、ジョジョを用い…

小熊英二『日本社会のしくみ』

■小熊英二『日本社会のしくみ 雇用・教育・福祉の歴史社会学』講談社、2019年7月 雇用慣行について、比較および歴史社会学的な分析。日本の雇用の特徴といわれる年功序列の賃金、終身雇用がどのような経緯でもって成立したのか、多くの資料や参考文献を用い…

石井遊佳『百年泥』

■石井遊佳『百年泥』新潮社、2018年1月 『おらおらでひとりいぐも』とは対照的に、とても洗練された物語となっている。さまざまな物語が「泥」から生まれてくる。単に「私」の物語で終わることなく、世界の広がりを感じさせてくれる。リアルな描写と幻想的な…

若竹千佐子『おらおらでひとりいぐも』

■若竹千佐子『おらおらでひとりいぐも』河出書房新社、2017年11月 東北弁の語りが入り交じる文体に、最初は興味深いと感じた。標準語の語り手と東北弁で語る「桃子」、さまざまな語りが多声的に広がっていくのではないかと予感させたのだが、期待外れの展開…

町口哲生『教養としての10年代アニメ』

◆町口哲生『教養としての10年代アニメ』ポプラ新書、2017年2月 とても退屈なアニメ評論。 アニメを「インフォテインメント(情報娯楽)」として捉え、教養(学問)で分析すると述べているが、アニメ作品そのものの理解にはほど遠い試み。学問的に見せたいと…

千野帽子『人はなぜ物語を求めるのか』

◆千野帽子『人はなぜ物語を求めるのか』筑摩書房、2017年4月 物語論をベースとした一種の自己啓発書のような内容。物語論を、人間とは何なのかといった問題で利用するというのはなかなか新鮮な内容であった。物語論なんて、文学研究でしか使えないと思ってい…

北田暁大、栗原裕一郎、後藤和智『現代ニッポン論壇事情 社会批評の30年史』

◆北田暁大、栗原裕一郎、後藤和智『現代ニッポン論壇事情 社会批評の30年史』イースト新書、2017年6月 期待せずに読み始めたが、なかなか面白い内容の本だった。90年代後半から2000年代の論壇事情が理解できた。 批評にめっきり興味や関心を失っていたが、こ…

千葉雅也『勉強の哲学』

◆千葉雅也『勉強の哲学 来たるべきバカのために』文藝春秋、2017年4月 『勉強の哲学』は腑に落ちるところが多い。勉強について考えたことがある人は、「そう、そう」とうなずくことが書いてある。 勉強は確かに際限なく進めることができてしまう。でも、それ…

横光利一『旅愁(下)』

◆横光利一『旅愁(下)』講談社文芸文庫、1998年12月 長く異国で生活していると、次のような「矢代」の言葉はとても印象的に響く。 「君、僕はいま非常に気持ちが良いのだよ。われながら興奮を感じるほど混じりけがないように思うんだが、これがいつまでも続…

大澤真幸『ナショナリズムの由来』

◆大澤真幸『ナショナリズムの由来』講談社、2007年6月 800ページを超える大著で、持って読むのがとてもつらい本であった。しかも、つらいのは本の重さだけでなく、その内容もである。 本書は、はっきり言えば、著者の読書ノートあるいはお勉強ノートといった…

小川仁志『はじめての政治哲学 「正しさ」をめぐる23の問い』

◆小川仁志『はじめての政治哲学 「正しさ」をめぐる23の問い』講談社現代新書、2010年12月 政治哲学の諸理論をはじめての人にわかりやすく解説している。 タイトルから具体的なケースをきっかけにして、理論の解説をするのかと思ったが、さまざまな学者の理…

張競『海を越える日本文学』

「おわりに」のところを読んでいたら、三浦綾子はかつて東アジアで非常に人気があったと書いてある。ところが、日本では三浦綾子の文壇的評価が低かったという。芥川賞や直木賞といった文学賞をもらっていないと。一方、同様に文学賞とは無縁の村上春樹は、…

古川日出男『ベルカ、吠えないのか?』

◆古川日出男『ベルカ、吠えないのか?』文春文庫、2008年5月 正直、ぜんぜん面白くない。 語り手の語り方に、まったく合わない。イヌに呼びかける語り方は、気持ちが悪い。そもそも、この語り手はいったい何なのか? イヌの内面に入り込んだり、20世紀の表と…

野内良三『うまい!日本語を書く12の技術』

◆野内良三『うまい!日本語を書く12の技術』NHK出版、2003年9月 この手の本はいろいろ読んだので、以前読んだ類似本と内容がかぶる。良い文章を書く秘訣は、だいたいみんな同じなのだ。 本書のなかで、なるほどなと思ったのは、定型表現を遠慮無く使おうとい…

石黒圭『文章は接続詞で決まる』

◆石黒圭『文章は接続詞で決まる』光文社新書、2008年9月 接続詞をうまく使うと、文章は読みやすくなる。しかし、これが難しい。どこで、どんな接続詞を使えば良い文章になるか。そもそも、接続詞を使うべきか使わないべきか。文章を書くときには、いつも悩む…

白井恭弘『外国語学習の科学――第二言語習得論とは何か』

◆白井恭弘『外国語学習の科学――第二言語習得論とは何か』岩波新書、2008年9月 外国語を身につけるのは難しい。何か良い方法がないものか。そんなことをいつも考えているのだが、なかなか良い学習法が見つからない。 外国語を学ぶのも難しいが、また教えるの…

大塚英志『初心者のための「文学」』

◆大塚英志『初心者のための「文学」』角川文庫、2008年7月 ぼくが先に中上ら八〇年代文学は「ガンダム」のようだ、と記したのは「ガンダム」もまた八〇年代に「サーガ」化したからです。 中上の熊野という現実の土地の上に築きあげた「神話的世界」とは、「…

東浩紀+大塚英志『リアルのゆくえ――おたく/オタクはどう生きるか』

◆東浩紀+大塚英志『リアルのゆくえ――おたく/オタクはどう生きるか』講談社現代新書、2008年8月 両者の言い分はなんとなくわかるけれど、なんだかなあという感じ。無駄に対立しているような気がしてならない。対立のための対立というか。そういう批評なんだ…

水月昭道『高学歴ワーキングプア 「フリーター生産工場」としての大学院』

◆『高学歴ワーキングプア 「フリーター生産工場」としての大学院』光文社新書、2007年10月 まあまあ面白い内容だけど、買って読むほどでもなかったなあ。高学歴ワーキングプア 「フリーター生産工場」としての大学院 (光文社新書)作者: 水月昭道出版社/メー…

蓮實重彦『「赤」の誘惑――フィクション論序説』

◆蓮實重彦『「赤」の誘惑――フィクション論序説』新潮社、2007年3月 難しすぎて、ほとんど理解できず。「赤」の誘惑―フィクション論序説作者: 蓮實重彦出版社/メーカー: 新潮社発売日: 2007/03/01メディア: 単行本 クリック: 37回この商品を含むブログ (48件)…

荒木浩『日本文学 二重の顔 〈成る〉ことの詩学へ』

◆荒木浩『日本文学 二重の顔 〈成る〉ことの詩学へ』大阪大学出版会、2007年4月 エンデが言うように、すぐれた著作がなされるためには、〈外部〉の本質的な「内面」化が必要だ。たとえていえばそれは、ペルソナと顔が融合して、新しい顔、新しいわたしが誕生…

8月に読んだ本

◆福岡伸一『生物と無生物のあいだ』講談社現代新書、2007年5月 ◆定延利之『煩悩の文法――体験を語りたがる人びとの欲望が日本語の文法システムをゆさぶる話』ちくま新書、2008年7月 たとえば談話語用論の考えによれば、文法はまさに会話から生まれ出るもので…

永井均『子どものための哲学対話』

◆永井均『子どものための哲学対話』講談社、1997年7月 語り口は子ども向けではあるが、内容は大人が読んでも十分面白い。「学校」的な道徳では決して語られないような重要なことが述べられている。 「友だちは必要か?」について、こう述べている。 人間は自…

村上春樹『アフターダーク』

◆村上春樹『アフターダーク』講談社文庫、2006年9月 面白い小説。 都会のある一夜が舞台。ファミレスで一人で本を読んでいる女と彼女に話しかける男。ラブホテルでのちょっとした事件。怪しい組織。深夜に一人残業する男。そして、これらの登場人物たちを見…

村上春樹『中国行きのスロウ・ボート』

◆村上春樹『中国行きのスロウ・ボート』中公文庫、1997年4月 中国行きのスロウ・ボート 貧乏な叔母さんの話 ニューヨーク炭鉱の悲劇 カンガルー通信 午後の最後の芝生 土の中の彼女の小さな犬 シドニーのグリーン・ストリート どの作品も味わい深いが、「午…

三浦佑之『日本古代文学入門』

◆三浦佑之『日本古代文学入門』幻冬舎、2006年9月 面白い本。エロ・グロ・ナンセンスなテーマや歴史的事件、異界のテーマの物語が多数紹介される。紹介されている物語がどれも面白い。物語なので、実際に起きた事件や出来事が語られているとは一概には言えな…