杉田俊介『ジョジョ論』

杉田俊介ジョジョ論』作品社、2017年7月

時折、著者の自分語りが挿入されるものの、前半はいちおうジョジョ作品の分析がなされていた。ジョジョに興味がある者にとって、参考になる。しかし、後半というか最後の7章から8章あたりになると、ジョジョを用いた作者の個人的な人生論となってしまうのが非常に残念。ジョジョという作品に関心があるのであって、著者の人生などには興味がない。勝手に自分の思うように生きれば良いじゃないか、としか思えない。最後に加えられた補論に至っては、資本主義批判についてまとめた著者のお勉強ノートであり、ジョジョとは関係ない。『ジョジョ論』なのであるから、やはりジョジョという作品を深く論じた評論であってほしかった。 

ジョジョ論

ジョジョ論

 

 

小熊英二『日本社会のしくみ』

小熊英二『日本社会のしくみ 雇用・教育・福祉の歴史社会学講談社、2019年7月

雇用慣行について、比較および歴史社会学的な分析。日本の雇用の特徴といわれる年功序列の賃金、終身雇用がどのような経緯でもって成立したのか、多くの資料や参考文献を用いて明らかにしていく。

今、当たり前だと思っていた「しくみ」が、どのように成立したのかという歴史を振り返っていくと、この社会はもしかしたら別のありようもあったのだなと思わせられる。だが、この今の社会を選んだのは、私たちである。どの社会が良いとか悪いとか、誰が悪の元凶だとか、そんなことの答えを本書に求めてはならない。結局は、私たちはどのような社会を目指すのかを一人一人考えるだけだ。そのための土台になるのが本書である。

それにしても分厚い本だ。 

石井遊佳『百年泥』

石井遊佳百年泥』新潮社、2018年1月
『おらおらでひとりいぐも』とは対照的に、とても洗練された物語となっている。さまざまな物語が「泥」から生まれてくる。単に「私」の物語で終わることなく、世界の広がりを感じさせてくれる。リアルな描写と幻想的な物語がごく自然に接続し、まったく違和感がない。登場人物たちの物語が、はたしてリアルなものなのかフィクションであるのか、もはやどうでもよくなり物語世界に引き込まれてしまう。

百年泥 第158回芥川賞受賞

百年泥 第158回芥川賞受賞

若竹千佐子『おらおらでひとりいぐも』

■若竹千佐子『おらおらでひとりいぐも』河出書房新社、2017年11月
東北弁の語りが入り交じる文体に、最初は興味深いと感じた。標準語の語り手と東北弁で語る「桃子」、さまざまな語りが多声的に広がっていくのではないかと予感させたのだが、期待外れの展開へ収まってしまうのが非常に残念な作品。
形式で斬新さを見せようとしても、結局は内容が薄っぺらいと感じた。要は「私って何?」という古くさい、幼いテーマでしかない。物語では「桃子」は高齢者であるが、十代の若者という設定に変えても成り立ってしまう物語だ。この物語のどこが評価されたのか、甚だ疑問を感じる。

おらおらでひとりいぐも 第158回芥川賞受賞

おらおらでひとりいぐも 第158回芥川賞受賞

町口哲生『教養としての10年代アニメ』

◆町口哲生『教養としての10年代アニメ』ポプラ新書、2017年2月
とても退屈なアニメ評論。
アニメを「インフォテインメント(情報娯楽)」として捉え、教養(学問)で分析すると述べているが、アニメ作品そのものの理解にはほど遠い試み。学問的に見せたいという著者の努力は感じるが、大学4年生か出来の悪い修士の学生のレポートを読んでいるような内容であった。
アニメだのマンガをちょっと難しい哲学や社会学の用語で語りたくなる人は、昔からいたが、いまだにこんな人がいるんだなあと懐かしく思った。この内容の講義だとしたら、退屈な講義だろうなあ。
アニメを学問として研究するなら、このような小手先のテクニックを振り回すだけでは不十分。アニメ研究に必要な基本知識の入門書だったら、『新版 アニメーション学入門』(平凡社新書)のほうが要領よくまとまっているし、さまざまな専門分野の視点からのアニメ研究であれば、『マンガ・アニメで論文・レポートを書く』(ミネルヴァ書房)のほうが参考になる。

(117)教養としての10年代アニメ (ポプラ新書)

(117)教養としての10年代アニメ (ポプラ新書)

千野帽子『人はなぜ物語を求めるのか』

千野帽子『人はなぜ物語を求めるのか』筑摩書房、2017年4月
物語論をベースとした一種の自己啓発書のような内容。物語論を、人間とは何なのかといった問題で利用するというのはなかなか新鮮な内容であった。物語論なんて、文学研究でしか使えないと思っていたので。

北田暁大、栗原裕一郎、後藤和智『現代ニッポン論壇事情 社会批評の30年史』

北田暁大栗原裕一郎後藤和智『現代ニッポン論壇事情 社会批評の30年史』イースト新書、2017年6月
期待せずに読み始めたが、なかなか面白い内容の本だった。90年代後半から2000年代の論壇事情が理解できた。
批評にめっきり興味や関心を失っていたが、この本を読んだら、最近の批評をまた読みたくなってきた。最近の批評の悪いところがよく分かったからだ。いまさら、「批評はこうあるべきだ」のような興味や関心もないが、この本で述べられている問題点は自分で勉強してみたくなる。とりあえずは、何の勉強をするにせよ、経済の知識は必要だろう。