三島由紀夫『美徳のよろめき』

三島由紀夫美徳のよろめき新潮文庫、1960年11月
これは「美徳」あるいは「悖徳」といった観念をめぐる「思想小説」というよりは、「身体小説」なのではないか。というのも、ヒロインである「倉越節子」は、あまりにも簡単に妊娠してしまう身体の持ち主なのだ。節子は、「土屋」とのつきあいが始まるときに、夫の子を宿しすぐに堕胎する。その後も、たしか3回(?)、土屋の子を妊娠しては中絶を繰り返している。節子の夫は、どうやら妊娠しないように慎重らしいが、土屋はその点では無神経なところがあるという。
最後の中絶では、麻酔をせずに行ない、節子はその苦痛に耐える。苦痛を耐え抜くことで、「非凡な女」になった。たしか、妊娠する身体を「自然」だと節子は捉えていたように思われる。とするなら、中絶は「自然」に反する行為と言えるが、節子は「自然」に反することによって罰せられることを望んでいたようだ。この小説は、やはり「身体=自然」との対決がテーマなのだろうか?。

美徳のよろめき (新潮文庫)

美徳のよろめき (新潮文庫)