三島由紀夫『岬にての物語』

三島由紀夫『岬にての物語』新潮文庫、1978年11月
表題作を含む13の短篇を集めたもの。主に三島の20代の時の作品。
ここに収められた短篇は、どれもかなり面白い。読みながら、背筋がゾクゾクッとするような恐ろしさを感じる。
特に恐ろしさを感じた作品は、「牝犬」という作品だ。これは、年上の女性が何から何まで年下の男の世話を焼くのだが、男はうっとうしくなって家を出てしまう。それで、女友達のところに泊めてもらおうと、あちこち歩き回るのだが、常に年上の女性が先回りしていて、逃げ切れない。今なら、この年上の女性の行動はストーカーと呼べるものかもしれない。年下の男のあらゆることを知り尽くしていて、彼が向かう行き先をすべて嗅ぎつけてしまうわけだ。ただ、三島の場合、ラストで意外な展開をさせることが多い。あらゆることを知られていた男は、自分もまたこの年上の女性のことを知り尽くしていたという皮肉。こういうオチの付け方は三島らしい。
「月澹荘綺譚」には、ただ「見る」だけの男が登場していて興味深い。この作品は昭和40年のもので三島の晩年に近い作品だが、「見る」だけの男「照茂」は、この後の「豊饒の海」における「本多」のような人物と言えるかもしれない。

岬にての物語 (新潮文庫 (み-3-26))

岬にての物語 (新潮文庫 (み-3-26))