2005-01-01から1年間の記事一覧

三浦展『下流社会』

◆三浦展『下流社会 新たな階層集団の出現』光文社新書、2005年9月 「下流社会」というネーミングは面白いと思った。こういうインパクトのあるタイトルをつけるセンスはすごいと思う。年末にテレビを見ていたら、「今の日本は「下流社会」と言われて…」などと…

香山リカ『貧乏クジ世代』

◆香山リカ『貧乏クジ世代 この時代に生まれて損をした!?』PHP新書、2006年1月 1970年代生まれ、特に「団塊ジュニア」と呼ばれる世代には、自分たちが「貧乏クジ」をひかされたという意識があるらしい。バブルに乗り遅れたし、不況による就職難であったり、年…

野村芳太郎『背徳のメス』

◆『背徳のメス』監督:野村芳太郎/原作:黒岩重吾/1961年/松竹/87分 この映画は、男の理不尽さが女を抑圧する物語と言える。毎夜、女性と遊び回っている医者の植(うえ)は、病院の創立パーティーの夜、酔って寝ていたところガス漏れのために、あやうく…

野村芳太郎『配達されない三通の手紙』

◆『配達されない三通の手紙』監督:野村芳太郎/原作:エラリィ・クイーン/1979年/松竹/131分 いかにも推理小説という感じの物語。結婚直前に失踪した男が3年ぶりに戻ってくる。両親の反対を押し切り、紀子はこの男と結婚する。新しい生活がはじまった直…

仲正昌樹『なぜ「話」は通じないのか』

◆仲正昌樹『なぜ「話」は通じないのか――コミュニケーションの不自由論』晶文社、2005年6月 本書を読んだ後に、軽々しく本書についてネット上に書くのは、まったく本書の内容を読めていない、理解していない証拠なのかもしれない。それなのに、こうして性懲り…

野村芳太郎『事件』

◆『事件』監督:野村芳太郎/原作:大岡昇平『事件』/1978年/松竹/138分 19歳の少年が殺人犯としてつかまる。そして彼の裁判が始まる。この裁判の過程がこの映画の物語となる。裁判を通じて「事件」の真相が明らかになっていく。裁判のなかで明らかになっ…

野村芳太郎『真夜中の招待状』

◆『真夜中の招待状』監督:野村芳太郎/原作:遠藤周作『闇の呼ぶ声』/1981年/松竹/125分 兄弟が次々と蒸発していく。やがて一番仲の良かった兄まで蒸発してしまい、ノイローゼに陥る樹生。樹生の婚約者圭子は、精神科医の会沢に相談し、樹生兄弟の失踪の…

谷崎潤一郎『少将滋幹の母』

◆谷崎潤一郎『少将滋幹の母』新潮文庫、1953年10月 古典文学で色好みとして有名な平中(へいじゅう)を取材した物語。平中については、芥川も「好色」で小説にしている。谷崎と芥川といえば、小説の筋を巡る論争が有名なのだが、谷崎は終生芥川を意識し続け…

ヴァルター・ルットマン『伯林大都会交響楽』

◆『伯林大都会交響楽』監督:ヴァルター・ルットマン/原案:カール・マイヤー/1927年/ドイツ/60分 ベルリンの一日をコラージュした映像作品。この映画は、当時かなり注目された作品だと思う。日本でもけっこう話題になっていたのではないだろうか。 この…

谷崎潤一郎『台所太平記』

◆谷崎潤一郎『台所太平記』中公文庫、1974年4月 この前、豊田四郎監督による映画『台所太平記』を見て、原作が気になったので読んでみた。小説もかなり面白い。 考えてみると、「女中」は日本の近代文学において重要というか注目すべきテーマであったのだ。…

ジガ・ヴェルトフ『カメラを持った男』

◆『カメラを持った男』監督:ジガ・ヴェルトフ/1928年/USSR/70分 解説を読むと、デニスとミハイルとボリスというカウフマン三兄弟がいて、そのうち長男のデニスが、ジガ・ヴェルトフと名乗ったという。弟のミハイル・カウフマンは、この映画の撮影を担当…

谷崎潤一郎『刺青・秘密』

◆谷崎潤一郎『刺青・秘密』新潮文庫、1969年8月 この文庫には、「刺青」(明治43年)「少年」(明治44年)「幇間」(明治44年)「秘密」(明治44年)「異端者の悲しみ」(大正6年)「二人の稚児」(大正7年)「母を恋うる記」(大正8年)が収められている。谷崎の初期作品…

永井荷風『墨東綺譚』

◆永井荷風『墨東綺譚』岩波文庫、1947年12月 これまで荷風は読みにくいというイメージを持っていたので、読まずに嫌っていたのだが、思い切ってこの小説を読んでみたら、すごく面白い小説だった。今まで読まなかったことが非常に悔やまれる。 この小説は、や…

谷崎潤一郎『鍵・瘋癲老人日記』

◆谷崎潤一郎『鍵・瘋癲老人日記』新潮文庫、1968年10月 両作品とも面白い。「鍵」(1956年)も「瘋癲老人日記」(1961年)も、ともに日記形式であるのが特徴。「鍵」では、夫婦がたがいに秘密の日記を付ける。とは言うものの、夫も妻も互いの日記を盗み読みして…

谷崎潤一郎『吉野葛・盲目物語』

◆谷崎潤一郎『吉野葛・盲目物語』新潮文庫、1951年8月 「吉野葛」は、吉野を取材して歴史小説を書こうとしている語り手が、友人の津村と一緒に吉野に出かける。すると、実は吉野の地は津村にとって大切な場所であることが告げられる。ここは、津村の母親が生…

谷崎潤一郎『猫と庄造と二人のおんな』

◆谷崎潤一郎『猫と庄造と二人のおんな』新潮文庫、1951年8月 これもすごく面白い。猫に振り回される庄造は、いかにも谷崎的な人物。庄造は、リリーという名前の猫と10年近くも一緒に生活し、溺愛している。庄造にとって、リリーは母親や妻よりも大事な存在と…

谷崎潤一郎『蓼喰う虫』

◆谷崎潤一郎『蓼喰う虫』新潮文庫、1951年10月 昔は谷崎の小説が苦手だったが、この頃読むのが面白くなってきた。特に昭和になってから書かれた作品がいい。 この小説も、谷崎らしく一風変わった夫婦が登場する。斯波要(かなめ)と美佐子夫婦は、性格の不一致…

安部公房『壁』

◆安部公房『壁』新潮文庫、1969年5月 朝、起きてみるとどこか異変を感じる。なんだろうと思っていると、自分の名前が無くなっていることに気がつく。記憶喪失とかではなく、名前が自分から出て行ってしまうのだ。会社に行ってみると、もう一人の自分がいる。…

マイク・ニューウェル『ハリー・ポッターと炎のゴブレット』

◆『ハリー・ポッターと炎のゴブレット』監督:マイク・ニューウェル/2005年/アメリカ/157分 はじめて「ハリー・ポッター」の映画を見た。私は本も読んだことがないので、まったく設定が分からない。なので、この映画は全然ついていけず。ちゃんとシリーズ…

茂木健一郎『クオリア降臨』

◆茂木健一郎『クオリア降臨』文藝春秋、2005年11月 たしかに、「今時、印象批評なんて…」とこの本を読み始める前に思った。文学を印象で語るなんて、もう散々批判されてきたではないかと。それでも、茂木氏は今現在、印象批評というか「印象」を論じるという…

星野智幸『毒身温泉』

◆星野智幸『毒身温泉』講談社、2002年7月 「家族」の新しい形を考えようとした作品だとは思うが、私にはピンと来なかった。最後の「ブラジルの毒身」はなかなか面白い内容だったが、「毒身帰属」と「毒身温泉」の二つはイマイチだと思う。 星野作品はまだ3つ…

見沢知廉『ライト・イズ・ライト』

◆見沢知廉『ライト・イズ・ライト Dreaming 80's』作品社、2005年10月 新右翼の活動をしている「ツカサ」は、左翼活動をしている医学部生の「ヨーコ」と付き合っている。まずこの組み合わせが面白いなと思う。ツカサたちの世界は、まるで年中祭をやっている…

日本語の問題なのか?

石川忠司の『現代小説のレッスン』(ISBN:406149791X)は現代小説の優れた批評で、参考になることが多い本である。ところで、最近この本を読んでいて気になることがあった。 それは、阿部和重について論じている箇所である。そこで、石川は阿部の小説に出て来…

青山真治『ホテル・クロニクルズ』

◆青山真治『ホテル・クロニクルズ』講談社、2005年3月 『死の谷'95』がまあまあ面白かったので、『ホテル・クロニクルズ』も読んでみた。紀州、那覇、ランカウイ、ホノルル、金沢、ソウル、横浜を舞台に、それぞれの土地でそれぞれの物語が語られていく。こ…

阿部和重『シンセミア』

ひさしぶりに『シンセミア』を読み直してみた。やはり、この小説はすごい。 ところで、『シンセミア』を読んでいたらフォークナーの『八月の光』が気になった。隈元光博と田宮彩香の出会いはこうだ。場所は書店で、光博がいきなり彩香に「金を貸してくれ」と…

山崎貴『ALWAYS 三丁目の夕日』

◆『ALWAYS 三丁目の夕日』監督:山崎貴/2005年/日本/133分 原作のコミックについてはまったく知らないのだけど、映画はなかなか面白かった。この映画にノスタルジーを感じるとすれば、やはり人々がまだ「意欲」を持っていたということに対してだろう。人…

本日の感想

京都の「大文字」すなわち「五山の送り火」について気になったので、とりあえずWikipediaで調べてみる。しかし、結局その起源がよく分からなかった。グーグルで検索してみても、どうやら起源に関してはいくつか説がありそうだ。 ところで、「五山の送り火」…

小川洋子『博士の愛した数式』

◆小川洋子『博士の愛した数式』新潮文庫、2005年12月 ずっと読みたいと思っていた小説で、文庫になったら買おうと待っていた本。待ちに待った小説なので一気読み。評判通り面白い小説だった。やはり小川洋子は上手い。 数学と文学を組み合わせも興味深い。世…

青山真治『死の谷'95』

◆青山真治『死の谷'95』講談社、2005年11月 「次郎」という名前が登場したあとに、彼の兄の名前は「一郎」であることが語られる。そして、漱石の『行人』が当然のように想起される展開。もうこの冒頭部分だけを読んだだけで、漱石ファンとしては、この後小説…

三並夏『平成マシンガンズ』

◆三並夏『平成マシンガンズ』河出書房新社、2005年11月 今年の文藝賞のもう一冊である『平成マシンガンズ』を読む。中学校が舞台になっていて、綿矢りさの小説に出てくる女の子以上に斜に構えた女の子が語り手だ。小説は「喧嘩と仲直りの規則的な羅列が句点…