2006-03-01から1ヶ月間の記事一覧

稲葉振一郎『モダンのクールダウン』

◆稲葉振一郎『モダンのクールダウン』NTT出版、2006年4月 結局、何が言いたいことなのか、一回読んだだけでは私には理解できそうにない。この本のテーマはいったい何だったんだろう?――論? ポストモダン論? 東浩紀論? 大塚英志論? 虚構世界論? 公共性論…

小谷野敦『なぜ悪人を殺してはいけないのか』

◆小谷野敦『なぜ悪人を殺してはいけないのか 反時代的考察』新曜社、2006年3月 評論集。本書は3部に分かれていて、第1部では「復讐論」として死刑制度についての考察。死刑廃止論批判。第2部は天皇制について。天皇制批判。ファンタジーと君主制の親和性を論…

身近なところから

身近なところから哲学は始まるとよく言われるが、昨今の情報論、データベース論が実は日常生活に深く関わる重要な問題であったのだなと実感する出来事が最近あった。 というのも、今、私が住んでいる市は4月から指定ゴミ袋制(有料制)に変わるのだが、住民登…

アンドリュー・J・サター『図解主義』

◆アンドリュー・J・サター『図解主義』インデックス・コミュニケーションズ、2005年6月 質問をすることの重要性は理解できるのだが、その質問をどうやってすればいいのか。こういうときに、図をつかって考えると、けっこううまくいくことが本書を読んでよく…

谷崎潤一郎『細雪』

◆谷崎潤一郎『細雪(全)』中公文庫、1983年1月 大長編の作品なので、気になりつつもこれまで敬遠していたが、読んでみるとやはり面白い。さすが谷崎だと感心してしまった。 蒔岡家には、4人の姉妹がいる。物語は、その内の2番目の姉である「幸子」、3番目の娘…

梅田望夫『ウェブ進化論』

◆梅田望夫『ウェブ進化論――本当の大変化はこれから始まる』ちくま新書、2006年2月 話題の本ということなので、興味本位で読み始めたが、これが非常に面白い。知的な刺激に富んだ一冊である。 この本を読むまで、なんとなく「ウェブ」や本書で言われる「オー…

谷崎潤一郎『乱菊物語』

◆谷崎潤一郎『乱菊物語』中公文庫、1995年6月 この作品は、昭和5年に発表されたものであるが、残念ながら未完である。「前編終り」とあり、次の展開が非常に気になるところで終わってしまっている。 佐伯彰一は、「大らかなロマネスクの誘惑」と題して、非常…

飯田泰之『経済学思考の技術』

◆飯田泰之『経済学思考の技術 論理・経済理論・データを使って考える』ダイヤモンド社、2003年12月 「経済学思考」を使って論理的に問題解決を行うことを目指す。そのための入門書。内容は、他の経済入門書と同じだったので、特に注目すべき主張はなかったが…

谷崎潤一郎『お艶殺し』

◆谷崎潤一郎『お艶殺し』中公文庫、1996年3月 この文庫には、「お艶殺し」と「金色の死」の二作品が収められている。ほぼ同時期に書かれた作品(大正三年)なのだが、解説を書いている佐伯彰一の言うとおり、この二作品は、一方は江戸趣味的で、もう一方は芸術…

谷崎潤一郎『武州公秘話』

◆谷崎潤一郎『武州公秘話』中公文庫、1984年7月 1931年から32年にかけて『新青年』に連載された作品。谷崎らしい作品。 武州公は、すぐれた武人であったのだが、実は「被虐性的変態性欲」の持主だった。しかし、公の変態性欲の裏には、「秘話」があった。語…

渡部直己『不敬文学論序説』

◆渡部直己『不敬文学論序説』ちくま学芸文庫、2006年2月 1999年に出た単行本に、あらたに付論「今日の天皇小説」を入れたもの。付論では、島田雅彦、星野智幸、阿部和重が論じられている。 「天皇制」を描いた小説はあっても、近現代の天皇(今上天皇)を描い…

稲葉振一郎・松尾匡・吉原直毅『マルクスの使いみち』

◆稲葉振一郎・松尾匡・吉原直毅『マルクスの使いみち』太田出版、2006年3月 本書は三つの章で構成されている。第一章では、マルクス主義や反経済学から新古典派経済学へに批判がいろいろあったが、それでも新古典派は有用で、新古典派をきちんと押えた議論が…

星野智幸『アルカロイド・ラヴァーズ』

◆星野智幸『アルカロイド・ラヴァーズ』新潮社、2005年1月 星野作品に特徴的である「植物」が主題となっている。また作者自身の言葉によれば、この作品は「家族」も主題となっている。まとめてしまえば、「植物」的な「家族」を描いた物語とでも言えるのだろ…

齋藤孝『質問力』

◆齋藤孝『質問力 話上手はここがちがう』ちくま文庫、2006年3月 これはなかなか面白い本だった。立ち読みしたときに、蓮實重彦の名があったので、気になって読み始めたのだが、この本に取り上げられている「質問」の例が非常によい。たとえば、私が気になっ…

それでも残るもの

自分で書いた文章を自分で回答できないような問題を作って・・・ということを書いて、入試問題がいかに愚劣であるかという結論に導く人が時々いるけれど、これは大層な考え違いである。 書いたときの私と読んでいる私が「別人」であるのだから、何が書いてあ…

村上春樹『ねじまき鳥クロニクル 第3部鳥刺し男編』

◆村上春樹『ねじまき鳥クロニクル 第3部鳥刺し男編』新潮文庫、1997年10月 ようやく「ねじまき鳥クロニクル」を全部読み終えた。第3部はおもしろくて、『世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド』以来の興奮を味わったが、でも何かが物足りない。 結局…

村上春樹に対する憎しみと愛情

内田樹氏が、ブログで先の村上春樹による安原顯批判に触れている*1。安原顯の村上春樹(あるいは文学)に対する愛憎について書かれてあり、興味深い内容であった。この文章のなかで、私が引っかかったのは、次の箇所である。 死を覚悟した批評家が最後にした仕…

大学院を出たけれど

職がない。大学院で博士号を取ったなら、研究職を目指せばよいのだが、それもうまくいかない。いつポストの空きができるのか分からないし、たとえ募集があったとしても、少ないポストに多数の応募者がいるわけだから、簡単にポストが得られるわけではない。…

「希望の国家論」

立岩真也×稲葉振一郎トークセッション「希望の国家論」を聞きに行った。「国家論」とあるものの、あまり「国家」の話がでないという不思議な展開だったが、トークの中身は非常に興味深いものだった。話題の中心は、発売されたばかりの『マルクスの使いみち』…

村上春樹『ねじまき鳥クロニクル 第2部予言する鳥編』

◆村上春樹『ねじまき鳥クロニクル 第2部予言する鳥編』新潮文庫、1997年10月 第2部読了。まだ、全体像がつかめない。結局、これはどういう物語なのか見えてこない。物語の断片がいくつか提示されているのだが、これがどう組み合わさっていくのか。この先が気…

村上春樹『ねじまき鳥クロニクル 第1部泥棒かささぎ編』

◆村上春樹『ねじまき鳥クロニクル 第1部泥棒かささぎ編』新潮文庫、1997年10月 『ねじまき鳥クロニクル』を読み始める。まだ第1部なので、今後何が起きるのか気になるところ。一風変わった登場人物たちが出てくるし、ノモンハンが語られたりと、これらの要素…

稲葉振一郎『経済学という教養』

◆稲葉振一郎『経済学という教養』東洋経済新報社、2004年1月 日記を調べてみると、この本は約一年前に読んでいる。一年経って、もう一度読み直してみると、なかなか面白い本であったことがようやく分かった。この一年、苦労しながらも、いくつか経済学関連の…

保坂和志『季節の記憶』

◆保坂和志『季節の記憶』中公文庫、1999年9月 だらだらと語り手の思考が連ねてあるだけなのに、読んでいて心地良い小説だ。これは、保坂和志の作品の魅力と言ってもいい。まさしくこれは、「思弁」の「エンターテイメント」だ。 鎌倉に引っ越してきた語り手…

柴崎友香『次の町まで、きみはどんな歌をうたうの?』

◆柴崎友香『次の町まで、きみはどんな歌をうたうの?』河出文庫、2006年3月 本書には、「次の町まで、きみはどんな歌をうたうの?」と「エブリバディ・ライズ・サンシャイン」の2作品が収録されている。そして、解説を綿矢りさが書いている。 「次の町まで、…

仲正昌樹『松本清張現実と虚構』

◆仲正昌樹『松本清張現実と虚構 あなたは清張の意図にどこまで気づいているか』ビジネス社、2006年2月 仲正氏の文芸評論ということで期待して読む。著者は「まえがき」のなかで、清張の作品を趣味の対象であると同時に文学的・思想史的な研究の対象としてき…

星野智幸『ロンリー・ハーツ・キラー』

◆星野智幸『ロンリー・ハーツ・キラー』中央公論新社、2004年1月 この作品はなかなか良かった。これまでは、星野智幸の小説をあまり面白いものではないと思っていたが、この小説は別だ。作者自身が言うように、この小説は三島由紀夫を意識して書かれたもので…

イム・グォンテク『酔画仙』

◆『酔画仙』監督:イム・グォンテク/2002年/韓国/119分 カンヌ映画祭で監督賞を受賞しただけあって、すばらしい出来だった。19世紀末、朝鮮時代の末期に活躍した天才画家チャン・スンオプの人生を描いた作品である。この映画は、理想の絵を追い求める芸術…

稲葉振一郎『「資本」論』

◆稲葉振一郎『「資本」論――取引する身体/取引される身体』ちくま新書、2005年9月 ずっと積ん読状態にあったのだが、来週に迫ったトークセッションのために読んでみた。「所有」、「市場」、「資本」を順々に整理したあと、第4章で「人的資本」論に入る。こ…

ロマン・ポランスキー『オリバー・ツイスト』

◆『オリバー・ツイスト』監督:ロマン・ポランスキー/仏・英・チェコ/129分 ディケンズの小説をポランスキーが映画化。オリバー・ツイストと名付けられた孤児が、ロンドンへやってきて、子供たちにスリをさせて稼いでいるフェイギンに出会う。オリバーもフ…

チェン・カイコー『PROMISE』

◆『PROMISE』監督:チェン・カイコー/2005年/中国/121分 一人の美女を中心に、運命の男たちが戦う。アクションシーンを期待して見に行ったのだが、物語もなかなか面白い。さすがにチェン・カイコーだ。この物語は、もしかすると、ライトノベルっぽいのか…