三島由紀夫『近代能楽集』

三島由紀夫『近代能楽集』新潮文庫、1968年3月
三島の中世へのこだわりは、しばしば言及されることだが、「近代能」という試みも、そうした三島のこだわりから生じたことなのだろう。私は演劇は詳しくないし、戯曲を読むのが苦手なので、この方面での三島の評価をすることができないが、この本に収められた作品はどれも面白い。
「あと一つ打ちさえすれば」鼓の音が聞こえたのに、という有名な結末をもつ「綾の鼓」。醜い老婆(実は小町)に「美しい」と言ってしまって、あえなく命を失う詩人が登場する「卒塔婆小町」。これは、かなり残酷な結末。ロマンチック・アイロニーというものか。現実と幻想が入り交じり、ラストで一気にすべてが相対化される。『天人五衰』のラストシーンのようなものだ。三島が好んだ形式なのだろうなあということが良く分かる。
こういうものは、読むだけではなく実際に舞台を見るべきものなのだろう。いつか機会があれば、見てみよう。

近代能楽集 (新潮文庫)

近代能楽集 (新潮文庫)