三島由紀夫『熱帯樹』

三島由紀夫『熱帯樹』新潮文庫、1986年2月
「熱帯樹」「薔薇と海賊」「白蟻の巣」の3つの戯曲が収められている。この3つの戯曲は、けっこう面白い内容だった。
「熱帯樹」は、息子を操って夫を殺害しようとする母を、逆に殺してしまおうとする兄妹が登場する。しかも、この息子は母とも何やら怪しい関係だし、妹とも怪しい関係にある。ドロドロした家族関係が読みどころ、見所なのだろう。悪い母親と兄弟愛の二つの主題を組み合わせた物語なのだ。
「『熱帯樹』の成り立ち」という文章を読むと、この話にはモデルがあるという。朝吹登水子からフランスの新聞で読んだという話を三島は聞いた。その話によると、フランスの地方のシャトオで、その主の貴族と結婚した夫人が、ひたすら夫の財産を狙って、息子を使って父親を殺させ、とうとう財産を我がものにしたという。なんだか怖い話だ。
この文章では、もう一つ三島が興味深いことを述べている。三島は、「肉欲にまで高まった兄妹愛というもの」に、「もっとも甘美なものを感じつづけて来た」という。子どものころに読んだ「千夜一夜譚」の第十一夜と第十二夜で語られる、墓穴のなkで快楽を全うした兄と妹の恋人同士の話から受けた感動が、いまだ消えずにあるからだと三島は書いている。三島が感動したという「千夜一夜譚」の第十一夜と第十二夜がすごく気になる。

熱帯樹 (新潮文庫)

熱帯樹 (新潮文庫)