三島由紀夫『愛の渇き』

三島由紀夫『愛の渇き』新潮文庫、1988年8月
三島の小説は、読みやすいものが多いけど、この小説はやや読みにくかった。一つは、語り手が妙に小難しい言い回しをするためではないだろうか。語り手は、比喩を多用しているのだけど、その比喩がいまいちキレが悪い。そのかっこわるい比喩が、スムーズな読解を妨げていると思う。三島は、文章表現が派手というか華美だと言われるが、この作品ではそうした三島の文章がマイナスになっている。
分かりにくかったのは、登場人物たちが何を考えているのか、何がしたいのかがはっきりと私には掴めなかった。ヒロインの悦子は、何がしたかったのか。たんに、年下の男、三郎に愛されたかっただけなのか。弥吉も悦子をどうしたいのかが分からないし、謙輔夫婦もうっとうしい。魅力的な登場人物がいないのも、この作品の欠点だ。三郎の人物設定は、『禁色』の「悠一」に繋がる人物なのかもしれない。
あまり面白い小説ではなかった。

愛の渇き (新潮文庫)

愛の渇き (新潮文庫)