2005-09-01から1ヶ月間の記事一覧

山中貞雄『河内山宗俊』

◆『河内山宗俊』監督:山中貞雄/1936年/日活京都=太秦發聲作品/82分 この作品も傑作といえば傑作だが、私は『丹下左膳余話』のほうが良かったと思う。しかし、この作品が重要なのは、当時16歳という原節子が出演していることだろう。顔など、戦後の作品…

蓮實重彦『「私小説」を読む』

◆蓮實重彦『「私小説」を読む』中央公論社、1985年10月 論じられているのは、志賀直哉、藤枝静男、安岡章太郎の3人。『「私小説」を読む』というタイトルから、この本は「私小説」論なのかなと予想していたのだが、まったくちがった。「私小説」かどうかとい…

平野謙『昭和文学史』

◆平野謙『昭和文学史』筑摩書房、1963年12月 芥川の死から始まって、戦争直後の昭和20年代までの文学史。特に、昭和10年代の記述が中心で、しかもかなり詳しい。「政治と文学」という切り口で記述している。私は、この昭和10年代に興味を持っているので、こ…

西林克彦『わかったつもり』

◆西林克彦『わかったつもり 読解力がつかない本当の原因』光文社新書、2005年9月 文章理解の障害となるものに「わかったつもり」があるという。「わかった」というのは、わからない箇所がないと思う安定した状態なので、もうそれ以上、理解しようとしなくな…

三島由紀夫『沈める滝』

◆三島由紀夫『沈める滝』新潮文庫、1963年12月 石や機械といった無機物にしか興味を示さない男と不感症の女とで、はたして恋愛小説が書けるのか。三島はそういう実験をこの小説で行なったのだろう。 そこで、昇が提案をした。誰をも愛することのできない二人…

三島由紀夫『殉教』

◆三島由紀夫『殉教』新潮文庫、1982年4月 短篇集。ここに収められた短篇は、私にはちょっと難しい。面白いと思ったのは「三熊野詣」。興味深いのは「スタア」。 「三熊野詣」は、歌人で国文学者「藤宮先生」と、傍で十年来先生の世話をしている「常子」の物…

三隅研次『女系家族』

◆『女系家族』監督:三隅研次/1963年/大映/111分 原作は山崎豊子。撮影を宮川一夫が担当している。出演も豪華。若尾文子に京マチ子。田宮二郎に中村雁治郎。山崎豊子の原作で、田宮二郎と言えば『白い巨塔』を思い出す。とにかく、出演している俳優みんな…

三島由紀夫『花ざかりの森・憂国』

◆三島由紀夫『花ざかりの森・憂国』新潮文庫、1968年9月 自選短篇集。「憂国」は、このあいだフィルムが見つかったというニュースがあって、DVD化されるということなので、その前に小説を読んでみた。『憂国』に関しては、三島自身が「三島のよいところ悪い…

中村真一郎『大正作家論』

◆中村真一郎『大正作家論』構想社、1977年2月 取り上げられている作家は、谷崎潤一郎、長與善郎、豊島與志雄、芥川龍之介、佐藤春夫、北原白秋、萩原朔太郎である。芥川龍之介が一番多く論じられているが、あまり面白くない。それよりむしろ、長與善郎や豊島…

三島由紀夫『真夏の死』

◆三島由紀夫『真夏の死』新潮文庫、1970年7月 短篇集。どの短篇も面白い。そのなかでも、「真夏の死」が一番良かった。 三島自身の解説によると、「真夏の死」も実際に起きた事件を人に聞いて、それを基にして書いたという。そして、最後の一行に眼目がある…

三島由紀夫『岬にての物語』

◆三島由紀夫『岬にての物語』新潮文庫、1978年11月 表題作を含む13の短篇を集めたもの。主に三島の20代の時の作品。 ここに収められた短篇は、どれもかなり面白い。読みながら、背筋がゾクゾクッとするような恐ろしさを感じる。 特に恐ろしさを感じた作品は…

蓮實重彦『ゴダール革命』

◆蓮實重彦『ゴダール革命』筑摩書房、2005年9月 期待していたほど面白いものではなかった。やはり以前に書いた文章が載せられているからだろうか。 それにしても、ゴダールの評論なのに、いつものように鋭い指摘がないなと思っていたら、この本はたとえば『…

三島由紀夫『愛の疾走』

◆三島由紀夫『愛の疾走』ちくま文庫、1994年3月 三島の恋愛物は、あまり好きではないが、この小説はかなり面白い。解説で、清水義範が「二重構造小説」とこの小説を呼ぶ。というのも、この小説は、普通に「第一章」とか「第二章」といった章立てのほかに、「…

対抗戦術はあるのか

内田樹の日記に、今度出る『街場のアメリカ論』について書かれてあった。しかし、このエントリーの内容は、狡猾というかなんていうか、本人が言うとおり腹が立つのだけど、腹を立てることが内田樹の手の内にあるというので、二重に腹が立ち不愉快な思いをす…

成瀬巳喜男『乱れ雲』

◆『乱れ雲』監督:成瀬巳喜男/1967年/東宝/カラー/108分 この映画も日本の映画史に残る名作。『乱れる』と『乱れ雲』は、成瀬の晩年の作品のなかでも特に素晴らしい作品。成瀬の作品で、なにはともあれ見ておかねばならない作品を挙げるなら、『浮雲』と…

山中貞雄『丹下左膳余話 百万両の壺』

◆『丹下左膳余話 百万両の壺』監督:山中貞雄/1935年/日活京都/92分 天才山中貞雄の傑作。きょう見たものは、ラストに最近(2004年)発見された丹下左膳の立ち廻りシーンが挿入されたもの。 何度見ても面白い映画だ。この映画の笑いは、登場人物の言葉と…

成瀬巳喜男『あにいもうと』

◆『あにいもうと』監督:成瀬巳喜男/1953年/大映/87分 原作は、室生犀星。出演は、京マチ子、森雅之、久我美子といった面々。京マチ子が、芸者か何かをしていて、学生と関係を持って妊娠した。その噂が町に広がって、この家族は不愉快な思いをする。 この…

成瀬巳喜男『流れる』

◆『流れる』監督:成瀬巳喜男/1956年/東宝/117分 原作は、私が好きな幸田文。しかし、この小説はまだ読んだことがないので、今度読んでみなくては。 この映画は、出演している女優が豪華。勢いのなくなった置屋が舞台だが、ここの女将が山田五十鈴。その…

成瀬巳喜男『乱れる』

◆『乱れる』監督:成瀬巳喜男/1964年/東宝/98分 これは傑作。これを見るまでは、成瀬は『浮雲』が一番!と思っていたが、その評価が崩れそうだ。この『乱れる』を成瀬映画の最高傑作と言っても良いかもしれない。特にこの映画を論じる人は必ず触れずにい…

三島由紀夫『青の時代』

◆三島由紀夫『青の時代』新潮文庫、1971年7月 これは面白い小説だった。三島の小説を読み続けてみて、私は三島の恋愛物の小説(戯曲は別)は好きではないが、この小説のように「社会」や「時代」を批評的に描き出す小説が好きだ。シニシズムというのか、ある…

三島由紀夫『熱帯樹』

◆三島由紀夫『熱帯樹』新潮文庫、1986年2月 「熱帯樹」「薔薇と海賊」「白蟻の巣」の3つの戯曲が収められている。この3つの戯曲は、けっこう面白い内容だった。 「熱帯樹」は、息子を操って夫を殺害しようとする母を、逆に殺してしまおうとする兄妹が登場す…

『成瀬巳喜男の世界へ』

◆蓮實重彦・山根貞男編『成瀬巳喜男の世界へ』筑摩書房、2005年6月 本書は、1998年のサン・セバスチャン映画祭の成瀬特集で作られたカタログをもとに、新たな論考を加えたもの。三部に分かれていて、第一部が批評家による成瀬の論考で、第二部は岡田茉莉子、…

三島由紀夫『宴のあと』

◆三島由紀夫『宴のあと』新潮文庫、1969年7月 有名なプライヴァシー裁判が起きたということで有名な作品。海外でも知られている作品ではないだろうか。 「雪後庵」という料亭の女主人である「福沢かづ」が、かつて大臣を何度も経験したという「野口雄賢」と…

原一男『またの日の知華』

◆『またの日の知華』監督:原一男/2004年/114分 原一男監督のはじめての劇映画。ヒロインの「知華」を4人の女優が演じる。一人の役者が、複数の登場人物を演じることは珍しいものではないが、一人の女性の役を四人の役者が演じるというのは珍しいのかもし…

原一男『極私的エロス・恋歌1974』

◆『極私的エロス・恋歌1974』監督:原一男/1974年/98分 この映画は『ゆきゆきて、神軍』と同じぐらいの衝撃力を持っている。この映画の主人公である武田美由紀も、奥崎謙三のように強烈な個性を持っているのだ。 かつて、原監督が3年間一緒に暮したという…

谷崎潤一郎『卍』

◆谷崎潤一郎『卍』新潮文庫、1998年1月 谷崎らしい小説。「美」に盲目的に崇拝して、その「美」に翻弄され、虐げられていく人々を描く。 園子には夫がいる。園子は絵の学校に通っているうちに、光子と知り合い、深い関係になり、光子の美しさに園子は翻弄さ…

三島由紀夫『盗賊』

◆三島由紀夫『盗賊』新潮文庫、1954年4月 主人公は、藤村明秀という青年。この青年は、「自己韜晦的性格」を有している。この自己韜晦が、思わぬ「恋愛悲劇」を生み出す物語であると、物語の冒頭で語られている。 極端に自分の感情を秘密にしたがる性格の持…

原一男『ゆきゆきて、神軍』

◆『ゆきゆきて、神軍』監督:原一男/1987年/122分 久しぶりに見た。かなりの人数が入っており、あらためて『ゆきゆきて、神軍』の人気の高さを知る。この映画の上映の後、原一男監督のトークショーが行われる。そこで、監督は、奥崎謙三との交流を語った。…

原一男『さようならCP』

◆『さようならCP』監督:原一男/1972年/82分 CPつまり脳性マヒの人たちの団体「青い芝」を追いかけたドキュメンタリー。原一男監督の第一作。障害者が、車いすを降りて、不自由な足で横断歩道を渡る冒頭の姿を見ただけでも、少なからぬショックを受けてし…

三島由紀夫『獣の戯れ』

◆三島由紀夫『獣の戯れ』新潮文庫、1966年7月 この小説は、私には難しい。なんだかよく分からない物語だった。逸平、優子、幸平の三角関係の物語なのだろうか。逸平と優子が夫婦で、幸平は優子と関係を持つ男。幸平は、逸平を「スパナ」で殴る。それがもとで…