2006-04-01から1ヶ月間の記事一覧

夢から覚めた後に

博士課程修了および中退者が、アカポス以外の道に進む際に、それを支援する組織があると良いのになあと最近考えている。こんなことを言うと、世間からは「自己責任だ」「甘えるな」とか言われそうだけど。しかし、博士課程を数年過ごした人が何らかの事情で…

マーティン・スコセッシ『ボブ・ディラン:ノー・ディレクション・ホーム』

◆『ボブ・ディラン:ノー・ディレクション・ホーム』監督:マーティン・スコセッシ/2005年/アメリカ/210分/デジタル・ハイビジョン マーティン・スコセッシが撮ったドキュメンタリー。ボブ・ディランのインタビューや、関係者のインタビューと60年代の映…

清水義範『スラスラ書ける!ビジネス文書』

◆清水義範『スラスラ書ける!ビジネス文書』講談社現代新書、2006年4月 私は恥ずかしながら未だに会社に入って働いたことがなかったので、ビジネス文書がどういうものがイメージができなかった。しかしながら、この本を読んだおかげでビジネス文書とはどうい…

人間性って何なのだろう?

今、必死に就職活動している。早く仕事にありつきたいからだ。その際、就職サイトを利用している。使ってみると、これがけっこう便利だったりする。とはいえ、さっぱり成果があがらない。応募しても、翌日には「残念ながら貴意に添えません」という例のテン…

保坂和志『残響』

◆保坂和志『残響』中公文庫、2001年11月 「コーリング」と「残響」の2作品が収められている。この二つの作品は、他の保坂作品とちょっと異なっている。というのも、他の作品なら、「僕」といった中心人物がいて、この「僕」が語り手となって、世界や時間につ…

キム・ソンジュン『連理の枝』

◆『連理の枝』監督:キム・ソンジュン/2006年/韓国/108分 病によって恋人を失ってしまうという典型的なメロドラマなのだが、予想外な物語の展開を見せてくれておもしろかった。愛した人が不治の病であったというのは、通俗的メロドラマのごく普通のパター…

保坂和志『草の上の朝食』

◆保坂和志『草の上の朝食』中公文庫、2000年11月 石川忠司は、解説のなかで、本作をプラトンの『饗宴』の「現代ヴァージョン」だと指摘している。 『草の上の朝食』は『饗宴』の現代ヴァージョンだ。保坂和志はここで二十世紀末ならではの「愛」を発見しよう…

小熊英二『日本という国』

◆小熊英二『日本という国』理論社、2006年3月 これは、中学生あたりに向けて書かれているのかな。そのために、かなり易しく書かれてあってよい。 日本という国がどのようにして形づくられてきたのか。近現代の日本について論じる。取り上げられているのは、…

保坂和志『もうひとつの季節』

◆保坂和志『もうひとつの季節』中公文庫、2002年4月 この作品は『季節の記憶』の続編にあたる。登場人物は「僕(中野)」とその息子の「クイちゃん」、そして、近所に住む「松井さん」とその妹の「美紗ちゃん」だ。主にこの4人の日常生活が綴られていく。この…

江藤淳『アメリカと私』

◆江藤淳『アメリカと私』文春文庫、1991年3月 プリンストン大学での研究生活をつづった「アメリカと私」は名作だと思う。留学体験記を読むのは非常に面白い。 冒頭、アメリカに到着早々に体調を崩した妻を医者に診せるまでの騒動からはじまる。この騒動を通…

現状とは肯定すべきものなのか

そこそこうまく機能している制度や慣行を、もっとより良くしようとか、別の可能性に変えることができるのではないかと考えることはいけないことなのか。 不満がわずかならば、そういう現状は肯定すべきなのか。あらゆる人が幸福になる社会などありえないのだ…

クァク・キョンテク『タイフーン』

◆『タイフーン』監督:クァク・キョンテク/2005年/韓国/124分 予想外に面白い映画。特に後半の巨大な台風の場面はすごい。水の量が半端じゃない。大量の水が船内を襲うなか、壮絶な男同士の戦いが繰り広げられる。あともう少したとえば大爆破のシーンなど…

村上春樹『神の子どもたちはみな踊る』

◆村上春樹『神の子どもたちはみな踊る』新潮文庫、2002年3月 6つの短篇で構成されている。神戸の地震が共通した主題となった連作小説であるが、それぞれ独立した作品としても読める。地震が、登場人物に直接的な被害をもたらすわけではない。ただ、たとえば…

中上健次『千年の愉楽』

◆中上健次『千年の愉楽』河出文庫、1992年10月 「オリュウノオバ」は、「路地」でただ一人の産婆だ。彼女は字が読めないが、記憶力がすぐれており、路地の人間の生まれた日や亡くなった日を覚えている。物語は、「中本の血」が流れる男たちの性的快楽の日々…

江藤淳『決定版 夏目漱石』

◆江藤淳『決定版 夏目漱石』新潮文庫、1979年7月 1部、2部、3部で構成される。1、2部では、漱石の「暗い力」すなわち存在の不安と「我執」すなわち「エゴイズム」の関係について、主に「こころ」「道草」「明暗」を取り上げ論じている。3部では、漱石とイギ…

中上健次『十九歳のジェイコブ』

◆中上健次『十九歳のジェイコブ』角川文庫、2006年2月 いかにも中上健次らしい物語。父殺しや路地、兄の自殺、異母妹など、その後の中上の世界を彩る主題が描かれていて、面白い。「秋幸」は、父殺しをついに果たすことが出来なかったわけだが、この小説の主…

岩田規久男『日本経済を学ぶ』

◆岩田規久男『日本経済を学ぶ』ちくま新書、2005年1月 これは非常に分かりやすい本だった。この本を読んでみたのは、『不安型ナショナリズムの時代』の内容がどうなのか知るため、つまり高度成長をもたらした開発主義について、経済学ではどのように説明され…

佐藤祐市『シムソンズ』

◆『シムソンズ』監督:佐藤祐市/2006年/日本/113分 オリンピックのカーリング選手をモデルにした映画。大阪での上映を待っていた。物語は、いわゆるスポ根ものだが、これがけっこう面白い。

ジュリアノ・メール・ハミス『アルナの子どもたち』

◆『アルナの子どもたち〜パレスチナ難民キャンプでの生と死』監督:ジュリアノ・メール・ハミス/2004年/イスラエル/84分 監督のジュリアノの母親であるアルナ・メールは、パレスチナの難民キャンプで、子どもたちに教育支援活動を行い、93年に「もうひと…

高原基彰『不安型ナショナリズムの時代』

◆高原基彰『不安型ナショナリズムの時代 日韓中のネット世代が憎みあう本当の理由』洋泉社、2006年4月 ナショナリズムの問題を、日韓中の三国の社会状況を比較して論じる。この試みには興味を持ったが、議論の中身はちょっと留保。 この三国に共通しているの…

芹沢一也『ホラーハウス社会』

◆芹沢一也『ホラーハウス社会 法を犯した「少年」と「異常者」たち』講談社、2006年1月 本書は、「知」の暴走あるいは「善意」が暴走する社会を論じているといえる。データでは少年による凶悪犯罪や精神障害者による犯罪など増えていないのに、ショッキング…

マルセル・プルースト『失われた時を求めて 2』

◆マルセル・プルースト(鈴木道彦訳)『失われた時を求めて 2 第一篇 スワン家の方へ Ⅱ』集英社文庫、2006年3月 第2巻に突入。ここには、第2部「スワンの恋」と第3部「土地の名・名」が収録されている。 「スワンの恋」は、これまで箇所とは異なり、語り手の「…

阿部和重『プラスティック・ソウル』

◆阿部和重『プラスティック・ソウル』講談社、2006年3月 本作は、1998年から2000年にかけて『批評空間』で連載されたものである。また、付録として福永信の「『プラスティック・ソウル』リサイクル」という評論が収録されている。この福永信による批評は、本…

保坂和志『カンバセイション・ピース』

◆保坂和志『カンバセイション・ピース』新潮文庫、2006年4月 私というのは暫定的に世界を切り取るフレームのみたいなもので、だから見るだけでなく見られることも取り込むし、二人で一緒に物や風景を見ればもう一人の視線も取り込む。言葉のやりとりでその視…

本田由紀『若者と仕事』

◆本田由紀『若者と仕事 「学校経由の就職」を越えて』東京大学出版会、2005年4月 本書は、教育から仕事への移行がどのような形で行われ、そこでは何が問題になっているのかを分析する。日本の社会では、「学校経由の就職」が支配的で、この慣行が高度経済成…

星野智幸『在日ヲロシヤ人の悲劇』

◆星野智幸『在日ヲロシヤ人の悲劇』講談社、2005年6月 読み終えた直後に感じたのは、この作品は『ロンリー・ハーツ・キラー』と似ているということだ。この作品もまた、『ロンリー・ハーツ・キラー』と同様に、三島由紀夫あるいは三島的なものとの対決を目指…

保坂和志『生きる歓び』

◆保坂和志『生きる歓び』新潮文庫、2003年9月 この本には、妻の母親のお墓参りに出かけたときに見つけた病気の子猫を、付きっきりで看病した模様を語った「生きる歓び」と、田中小実昌が亡くなったときに、その交流を振り返り、そのことを綴った「小実昌さん…

田中徳三『続・悪名』

◆『続・悪名』監督:田中徳三/1961年/大映/93分 『悪名』のつづきを描いた物語。大阪に戻ってきた浅吉は、なんの因果か、その強さを見込まれて、やくざの親分となって子分もできてしまう。弟分の貞と二人で、縄張りを運営していこうとするのだが、金がな…

田中徳三『悪名』

◆『悪名』監督:田中徳三/1961年/大映/94分 原作は今東光。勝新太郎と田宮二郎のコンビが面白い。勝新太郎扮する「浅吉」と田宮二郎扮するやくざの「貞」が出会い、二人で協力して、一人の女性を救う物語。喧嘩が強く面倒見の良い親分膚の勝新太郎もいい…

マルセル・プルースト『失われた時を求めて 1』

◆マルセル・プルースト(鈴木道彦訳)『失われた時を求めて 1 第一篇スワン家の方へⅠ』集英社文庫、2006年3月 鈴木道彦訳の『失われた時を求めて』がとうとう文庫に入った。私のなかでは、大事件だ。井上訳がちくま文庫であったが、まさか鈴木道彦訳まで手軽に…