三島由紀夫『三島由紀夫映画論集成』

三島由紀夫三島由紀夫映画論集成』ワイズ出版、1999年11月
三島の映画論をまとめて読めるので、とても重宝な一冊。三島の映画評は、作家にありがちのたんなる印象論ではなく、きちんと場面分析をしていたりして映画批評のあり方として学べる点は多い。やはり演劇をやっていた人だけのことはある。
さて、小説家三島由紀夫にとって、映画というメディアはどううつっていたのか。今後考えるべき問題はその一点なのだが、とりあえずの素描として、一つは三島が映画に出演した経験は思っていたよりも重要であること。小説が個人創造の行為だとするならば、映画は集団での創造行為であるとしていることに注目していること。などということを論じていったら少しは面白いかもしれない。
それから、若いころの三島はコクトーをはじめフランス映画を好んでいたが、晩年(という言い方もおかしいのか)はちょうどやくざ映画が流行していたこともあって、やくざ映画に傾倒していく様子もこの本を読むと良く分かる。これを、例の事件に短絡的に結びつけてしまうのは、評論として芸がないと思うが、だれでもあの事件をやくざ映画と重ねて見てしまうの無理ないことかもしれない。三島は特に鶴田浩二に自分を重ね合わせていた。これも有名な話だが、自衛隊に突入する前、車のなかで三島が歌い始めたのが「唐獅子牡丹」であるとのこと。こういうどこかズレたところが三島の魅力でもあると言える。
三島とやくざ映画に関しては、常石史子「三度目の自刃―<超やくざ映画>の波紋」(『ユリイカ』2000年11月)が詳しい。

三島由紀夫映画論集成

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