山中貞雄『丹下左膳余話 百万両の壺』

◆『丹下左膳余話 百万両の壺』監督:山中貞雄/1935年/日活京都/92分
天才山中貞雄の傑作。きょう見たものは、ラストに最近(2004年)発見された丹下左膳の立ち廻りシーンが挿入されたもの。
何度見ても面白い映画だ。この映画の笑いは、登場人物の言葉と次にくる映像が正反対の意味になっているというズレから生じる。たとえば、女将さんが「わたしは、子どもなんて大嫌いだよ」と言うと、次のカットで「安ぼう」が女将さんにかわいがられている。安ぼうが「竹馬を買ってくれよ」と言うと、女将さんは「だめ」と拒否するが、次のカットで竹馬を買って、一緒に遊んでいる。私の説明が下手なので、人物の言葉と映像のズレから生じる笑いの手法のすばらしさがいまいち伝わらないと思うが、とにかく映画を見ていると、その笑いを起こさせる《間》の取り方が非常に巧みであることが理解できる。この映像の笑いあるいは《間》の取り方は、北野武作品に通じるところがあるかもしれない。ラストで、安ぼうが「百万両の壺」を売りに出かけたところを、急いで止めに行く丹下左膳の場面など、スリルがあって見応えがあった。
シナリオも映像も全て完璧だと思う。これほどの映画を撮れる監督が、今の日本映画界にいるだろうか?