原一男『またの日の知華』

◆『またの日の知華』監督:原一男/2004年/114分
原一男監督のはじめての劇映画。ヒロインの「知華」を4人の女優が演じる。一人の役者が、複数の登場人物を演じることは珍しいものではないが、一人の女性の役を四人の役者が演じるというのは珍しいのかもしれない。「知華」を演じたのは、吉本多香美渡辺真起子、金久美子、桃井かおりの四人。
物語の時代は、60年代から70年代。1960年の6月15日から始まっている。つまり安保闘争がもっとも激しく行われていた時だ。物語は、この後においても、「知華」の物語を追いながらも、大学闘争や浅間山荘事件や爆弾テロなど、革命運動のニュースが挿入されていく。
知華は、体操のオリンピック候補になるほどの実力者であったが、競技会で失敗をし体操の世界で挫折。大学を出て、中学校の体育の先生になる。そして、良雄と結婚し子どもが生れる。だが、そのころ胸を悪くしていた良雄は、医者に肺浸潤であると診断される。ここまでが第一章。
良雄は病気治療でサナトリウムに入っている。知華は和也と知り合い、深い関係になる。和也は婚約者がいるにも関わらず、知華を求める。良雄が退院してきて、知華と息子の3人一緒にいると、知華のもとに和也から電話がくる。そして知華は、夫と息子を置いて、和也に会いに行く。良雄が見ているテレビには、浅間山荘事件の様子が映されている。これが第二章。
良雄と息子の純一を置いて家出をした知華は、いまや借金取りに追われる日々。ある夜、動物解放戦線というグループの一員であり、かつての知華の教え子である孝次と出会う。一方、和也は知華を追いかけてくる。知華は借金取りが逃れるように、孝次の故郷に行き、そこで花火の祭に参加する孝次を見る。翌日、二人は一緒に沖縄、与那国島に出かけようとするが、ちょうどそこに動物解放戦線のリーダーである孝次の姉が孝次を迎えに来る。孝次は姉と去っていく。これが第三章。
とある新しくできたスナックに勤めている知華。そこで瀬川という男と出会う。瀬川はかつて女性を刺した事件を起こしたという。知華は瀬川とつきあい始める。息子純一に手紙を出した知華。その手紙をもとに、純一が知華のもとを一人で訪ねてくる。瀬川と知華と純一の三人で遊園地で遊ぶ。瀬川は預けておいた金を持ってこいと知華に言う。知華は、もうお金は使ってしまったと言う。知華と瀬川は、瀬川の故郷である飛島に向かう。瀬川は、かつて自分が住んでいたのであろうと思われる家を訪れる。知華は、純一に電話をかける。お母さんと一緒に暮そうかと言うが、純一に拒否される。海を見下ろす岸壁で、知華と瀬川が立っている。瀬川にナイフで刺された知華は死ぬ。これが第四章。
最後にエピローグとして、青年に成長した純一が、飛島を訪れる。母、知華が亡くなった場所で、花束を捧げる純一。
物語はこんな感じなのだが、イマイチ抽象的で、この映画を全体として見た場合、一体何だったのだろう?という消化不良の印象が残る。悪くはないけど、良くもないなと思った。これまでの原監督のドキュメンタリー作品に対し、強烈な印象を持っているだけに、はじめての劇映画はやや大人しいかなと。一人の女性を四人の女性が演じるという手法面に頼りすぎたのかなと思う。