2004-01-01から1年間の記事一覧

吉田喜重『嵐が丘』

◆『嵐が丘』監督:吉田喜重/1988年/西友・西武セゾングループ・MEDIACTUEL/132分 これは面白い映画。タイトルからも分かるように、ブロンテの『嵐が丘』が原作なのだが、それを日本の中世に置き換えている。この映画のおかげで、『嵐が丘』の原作がすごく…

橋爪大三郎『政治の教室』

◆橋爪大三郎『政治の教室』PHP新書、2001年10月 橋爪氏らしく、とても分かりやすい本。民主主義の起源を辿り、民主主義の長所と短所を説明する「原理編」。日本人の政治意識を考察した「現実編」。そして、これらを踏まえた上で、著者なりの政治改革の方…

吉田喜重『女のみづうみ』

◆『女のみづうみ』監督:吉田喜重/1966年/現代映画社・松竹/98分 この映画も『樹氷のよろめき』のように、岡田茉莉子の格好と場所が不釣り合いなのである。それを見ていると、思わず笑いがこみ上げてしまう。けっして笑える映画ではないのだけど。 裕福な…

吉田喜重『情炎』

◆『情炎』監督:吉田喜重/1967年/現代映画社・松竹/97分 ここでの「水」は何か。女は、行きずりの労働者の男を求めて、海岸近くの男の住んでいる洋館へと足を運ぶ。誘惑の「水」と言えるだろうか。夫との仲はすでに破綻しており、夫は女を所有物としてし…

吉田喜重『樹氷のよろめき』

◆『樹氷のよろめき』監督:吉田喜重/1968年/現代映画社・松竹/98分 吉田喜重には女性映画の時代もあって、この時、岡田茉莉子を主演の映画を作っている。吉田自身、父=男性中心の社会を批判する意図があったことを述べているが、これらの女性映画の女性…

吉田喜重『人間の約束』

◆『人間の約束』監督:吉田喜重/1986年/西武セゾングループ・キネマ東京・テレビ朝日/124分 三國連太郎が出演しているので、ついでにこの映画も見てきた。北一輝を演じていた三國連太郎が、一転して老人役。かなりぼろぼろな身体をしていて、不気味な老人…

吉田喜重『戒厳令』

◆『戒厳令』監督:吉田喜重/1973年/現代映画社・ATG/110分 吉田喜重の「政治の季節」の時の作品として『エロス+虐殺』『煉獄エロイカ』そして、この『戒厳令』の三つが作られている。 『戒厳令』の舞台は、昭和の初め、二・二六事件の前後である。このな…

吉田喜重『炎と女』

◆『炎と女』監督:吉田喜重/1967年/現代映画社/103分 たとえば『去年マリエンバードで』のように、非常に抽象化された物語だと感じた。物語は、終始「子供は誰のものか」という問いを巡って展開する。主要な登場人物は二組の夫婦なのだが、両方の夫婦とも…

吉田喜重『エロス+虐殺』

◆『エロス+虐殺』監督:吉田喜重/1969年/現代映画社/168分 昨日に引き続き、この映画の上映後にも吉田喜重と岡田茉莉子のトークショーが行われる。正直、監督自身の解説がなかったら、私はこの映画を少しも理解できなかっただろう。監督は、何度も映画は…

ドナルド・リチー『小津安二郎の美学』

◆ドナルド・リチー(山本喜久男訳)『小津安二郎の美学−映画のなかの日本−』社会思想社、1993年3月 蓮實重彦の『監督小津安二郎』では、批判の対象として取り上げられていた本だが、それはおそらく批判の対象とすることができるぐらい、優れた小津論であった…

吉田喜重+岡田茉莉子トークショー

第七藝術劇場にて。『秋津温泉』上映後、二人のトークショーが行われる。とても興味深い話を聞くことができて感激。なにしろ一番前の席で聞いていたので。 吉田監督の話で、なるほどと思ったのは、この映画をアンチ・メロドラマとして創ったということだ。ア…

吉田喜重『秋津温泉』

◆『秋津温泉』監督:吉田喜重/1962年/松竹/113分 とても美しい映画。はじめて吉田喜重の作品を見たのだけど、とても良かった。 敗戦間近の時点から物語は始まる。空襲で廃墟となった家に、一人の男がやって来るのが冒頭場面。小津映画のようなローアング…

小津安二郎『秋刀魚の味』

◆『秋刀魚の味』監督:小津安二郎/1962年/松竹大船/カラー/112分 『秋刀魚の味』が大好きだ。何度でも見たくなる映画なのだ。何が魅力なのだろうか、そのことを考えながら見ていたのだけど、まずシナリオがよくできている。各シークエンスの繋がりがじつ…

千葉伸夫『小津安二郎と20世紀』

◆千葉伸夫『小津安二郎と20世紀』国書刊行会、2003年11月 千葉伸夫は、ノンフィクション作家で、映画関連の著作が多い。『映画と谷崎』、『評伝 山中貞雄』、『原節子 伝説の女優』などがある。私は『映画と谷崎』を読んだことがあるが、この本もノンフィク…

侯孝賢『珈琲時光』

◆『珈琲時光』監督:侯孝賢/2003年/日本/103分 きょうは映画の日で1000円だったので、『珈琲時光』をもう一度見に行ってくる。以前見たときに書いた感想が、まちがっていないかどうか確認するためだ。感想は以前に見たときと同じで、全然退屈な映画ではな…

バシュラール『空間の詩学』

◆ガストン・バシュラール(岩村行雄訳)『空間の詩学』ちくま学芸文庫、2002年10月 昔読んだときは、面白い本だと夢中になった。しかし、読み直してみたら、どこが面白かったのか分からなくなってしまった。 精神分析とか心理学的な研究がたびたび批判されて…

小津安二郎『秋日和』

◆『秋日和』監督:小津安二郎/1960年/松竹大船/カラー/128分 この映画は、『晩春』の父娘の関係を母と娘の関係に置き換えた作品だと言われる。婚期を迎えた娘が、母親の身を案じて、結婚をためらうという表面上の物語はたしかに同じだった。だけど、当然…

愉快、愉快

「21世紀COE:初の中間評価 九大と法大は実質不合格」 http://www.mainichi-msn.co.jp/today/news/20041130k0000m040101000c.html 「各プログラムの中間評価一覧」 http://www.mainichi-msn.co.jp/kagaku/science/news/20041130k0000m040102000c.html …

三島由紀夫『ラディゲの死』

◆三島由紀夫『ラディゲの死』新潮文庫、1980年12月 ラディゲはフランスの作家だ。三島がこの夭折の作家に非常に憧れていたのは有名な話である。私もラディゲが好きだ。文学の研究をしようと決心したのもラディゲが原因だったし。ラディゲを読んでいなかった…

小津安二郎『麦秋』

◆『麦秋』監督:小津安二郎/1951年/松竹大船/白黒/124分 ずっと見たいと思っていた作品。ようやく見ることができてうれしい。これで、夏三部作と呼ばれる作品(『晩春』『麦秋』『東京物語』)を全部見たことになる。 この映画は、印象的な場面が多い。突…

ロバート・ワイズ『サウンド・オブ・ミュージック』

◆『サウンド・オブ・ミュージック』監督:ロバート・ワイズ/1964年/アメリカ/174分 ミュージカル映画がなにより大好きなのだけど、この映画はまだ見たことがなかった。ドレミの歌とかエーデルワイスの歌などおなじみの歌で有名な映画だけど、ほかにもCM…

小津映画の俳優たち

小津の映画には、おなじみの俳優がいる。たとえば有名なところでは、笠智衆とか原節子だろうか。佐分利信もそうだし、三宅邦子も忘れてはいけない。それから中村伸郎と北竜二の二人も味がある。中村伸郎は、『東京物語』では、杉村春子のちょっと頼りのない…

三島由紀夫『音楽』

◆三島由紀夫『音楽』新潮文庫、1970年2月 三島の精神分析嫌いは有名だが、この小説はその精神分析を題材にしたものだ。解説のなかで、澁澤龍彦がこの小説を「推理小説のごときサスペンス」を持たせて書かれてあると指摘しているが、これはその通りだと思う。…

蓮實重彦『シネマの記憶装置』

◆蓮實重彦『シネマの記憶装置』フィルムアート社、1997年3月(新装版) この本も昔読んだことがある。第Ⅰ章の「シネマの記憶装置」という文章がすごい。まさに蓮實的文章といえるもので、約50ページほど切れ目なく続く文章がある。これはけっこう読むのが大変…

小津安二郎『秋刀魚の味』

◆『秋刀魚の味』監督:小津安二郎/1962年/松竹大船/カラー/112分 夏に見て以来、2度目の鑑賞。この映画もかなり好きだ。前にも書いたかもしれないけど、『秋刀魚の味』は非常にテンポがよい。というか、物語の後半は、かなりスピーディーに物語が展開し…

三島由紀夫『美しい星』

◆三島由紀夫『美しい星』新潮文庫、1967年10月 ある日、円盤を目撃したことから、自分は地球人ではなく宇宙人なのだと悟った家族の物語。エンターテイメントの小説ではなく、「純文学」のなかで、こんな荒唐無稽な設定の物語を書いた三島。しかも、けっこう…

蓮實重彦『監督 小津安二郎』

◆蓮實重彦『監督 小津安二郎<増補決定版>』筑摩書房、2003年10月 この前、ちくま文庫版のほうを読み終えたが、今回は去年出版された<増補決定版>を読んだ。 文庫版からあらたに書き加えられたのは、「憤ること」「笑うこと」「驚くこと」の三章である。…

小津安二郎『お早よう』

◆『お早よう』監督:小津安二郎/1959年/松竹大船/カラー/94分 『東京物語』や『晩春』のような、しっとりとした抒情的な作品も良いのだけど、小津は喜劇もうまい。この『お早よう』も、子どもたちのたわいない行動が、大人たちを振り回し一騒動起こすと…

永井均『私・今・そして神』

◆永井均『私・今・そして神――開闢の哲学』講談社現代新書、2004年10月 のための哲学 講談社現代新書―ジュネス" title="のための哲学 講談社現代新書―ジュネス" class="asin"> 久しぶりに永井均の本を読んだ。私は、同じ講談社現代新書から出ている『「子ども…

三島由紀夫『太陽と鉄』

◆三島由紀夫『太陽と鉄』中公文庫、1987年11月 この文庫には、「太陽と鉄」と「私の遍歴時代」の二つが収められている。「太陽と鉄」は、三島の身体論すなわち「肉体」という問題を考える際に重要となるエッセイである。 三島はこのエッセイの冒頭で、こんな…