吉田喜重『人間の約束』

◆『人間の約束』監督:吉田喜重/1986年/西武セゾングループ・キネマ東京・テレビ朝日/124分
三國連太郎が出演しているので、ついでにこの映画も見てきた。北一輝を演じていた三國連太郎が、一転して老人役。かなりぼろぼろな身体をしていて、不気味な老人の印象を受けた。物語は、高齢化社会をモチーフにしているけれど、老人医療批判とか、安楽死の是非を問う物語ではない。しかし、私はこの作品はあまり良い作品だと思えない。吉田喜重らしくないなあと思う。少し「物語」に頼りすぎたのではないか。
この作品は、「水」が主題となっているが、これは吉田作品でおなじみの「鏡」と共存している。亡くなる祖母の愛用している「水鏡」が鍵となるだろう。吉田作品における「鏡」は、わかりやすい主題だけに、あまり私は触れたくない主題なのだけど、吉田作品を論じるには欠かせない重要な主題なのだろう。「鏡」のなかにとらわれている人物が、頻出するからだ。「鏡」に映る自分を見ること。吉田作品の重要な主題だ。
そして、本作でもう一つ重要な主題の「水」だが、これが面白い。老夫婦の息子(河原崎長一郎)が、愛人の家から車で帰宅する途中で、激しい雨に見舞われる。自宅に着き、車から彼が降りるとき、なぜか雨が止んでしまう。そして、車から自宅玄関まで、彼はまったく濡れることなくたどり着くのだ。だが、玄関に着くと再びが激しい雨が降り始める。あきらかに雨は彼を避けている。つまり彼は「水」に疎外されているのだ。
と考えるならば、「水」と非常に深い関係を持つ彼の老母を、彼が殺すもの非常に説得力がある。つまり、これはもしかすると彼の「水」への嫉妬なのかもしれない。