小津安二郎『秋日和』

◆『秋日和』監督:小津安二郎/1960年/松竹大船/カラー/128分
この映画は、『晩春』の父娘の関係を母と娘の関係に置き換えた作品だと言われる。婚期を迎えた娘が、母親の身を案じて、結婚をためらうという表面上の物語はたしかに同じだった。だけど、当然ながら印象は全然ちがう。
秋日和』といえば、岡田茉莉子である。たしか小津の映画に岡田茉莉子がはじめて出演したのが、この『秋日和』だったと思う。岡田茉莉子は周知の通り、戦前の映画スター岡田時彦の娘で、その岡田時彦は小津の映画にも出演していた。親子で小津映画に出演しているというわけだ。
岡田茉莉子は、『秋刀魚の味』でも岩下志麻の兄嫁として登場する。小津の晩年の作品しか出ていないのだけど、岡田茉莉子の印象は強烈だ。『秋日和』という映画では、岡田茉莉子が一番活躍しているのではないか、と私には思われる。原節子(母)と司葉子(娘)の関係を混乱させた原因を作ったおなじみの男たち(佐分利信中村伸郎、北竜二)を相手に、強烈な一撃をお見舞いする場面など、見ていてほんとに気持がいい。さっぱりとして、要領の良い娘という役を見事に演じているのが岡田茉莉子だ。完全に司葉子をくってしまったのではないか。それぐらい勢いがあって、新鮮だった。
小津の後、岡田茉莉子吉田喜重の映画の女優となる。晩年の小津作品には、三上真一郎桑野みゆきなども出演している。松竹ヌーベルバーグで活躍する俳優たちだ。なんだかんだいっても、小津がいたから松竹ヌーベルバーグができたのではないか、と考えてしまう。小津の批判など、結局は小津の掌の上でしかできなかったのではないか。このへんの関係について映画史的な検討をしてみる必要があるなあと思う。