喜重

吉田喜重『煉獄エロイカ』

◆『煉獄エロイカ』監督:吉田喜重/1970年/現代映画社・ATG/117分 雑誌『世界』の2005年1月号が、特集で「戦後60年」をやっている。この映画を見る前に、たまたま立ち読みしたのだけど、この特集のなかの大澤真幸「不可能性の時代――戦後史の第三局面」に興…

吉田喜重『人間の約束』

◆『人間の約束』監督:吉田喜重/1986年/西武セゾングループ・キネマ東京・テレビ朝日/124分 この映画をもう一度見たのは、やはり『ユリイカ 総特集吉田喜重』(2004年4月臨時増刊号)にある、蓮實重彦「影とフィクション――吉田喜重論」に強く触発されたため…

四方田犬彦編『吉田喜重の全体像』

◆四方田犬彦編『吉田喜重の全体像』作品社、2004年8月 吉田喜重の全体像というタイトル通り、初期作品から『鏡の女たち』までを、5人の論者が論じた本格的な吉田喜重論集となっている。 私が面白い、興味深いと感じた論文は次のものである。 岡田茉莉子を論…

吉田喜重『水で書かれた物語』

◆『水で書かれた物語』監督:吉田喜重/1965年/中日映画社/120分 非常に官能的な作品。吉田喜重の映画で、岡田茉莉子は日傘を持つ女として記憶されている。鏡や水と並んで、岡田茉莉子の持つ日傘は吉田映画ならではの記号であることはよく指摘されることだ…

吉田喜重『血は渇いてる』

◆『血は渇いてる』監督:吉田喜重/1960年/松竹/87分 吉田喜重の2作目となる作品。小津の映画では、平均的なサラリーマンを演じていた佐田啓二が、この作品では暗い青年を演じている。 マスコミによって作られた「偶像」を、やがて自分の本当の姿ではない…

吉田喜重『告白的女優論』

◆『告白的女優論』監督:吉田喜重/1971年/現代映画社/122分 これは、精神分析を題材にした映画なのかなと思った。政治とエロスの三部作の間に作られた映画だが、この映画も演劇的だと言いたくなる。というのも、この映画はセリフがものすごく多いように感…

吉田喜重『煉獄エロイカ』

◆『煉獄エロイカ』監督:吉田喜重/1970年/現代映画社・ATG/117分 『エロス+虐殺』(1969)そしてこの『煉獄エロイカ』(1971)と『戒厳令』(1973)が、政治とエロスを扱った三部作ということになる。『煉獄エロイカ』と『戒厳令』の間に、『告白的女優…

吉田喜重『さらば夏の光』

◆『さらば夏の光』監督:吉田喜重/1968年/現代映画社/97分 ヨーロッパで彷徨う男と女。登場人物たちのオフの声が響く。ある時期、おそらく女性の映画を撮るようになったころから、吉田はオフの声を使うようになった。オフの声と映像を対立させるように、…

吉田喜重『日本脱出』

◆『日本脱出』監督:吉田喜重/1964年/松竹/96分 これは、素直にギャグ映画だと言って良いのではないか。ダメな臆病な男が、自分の意図と関係なく、凶悪な犯罪を犯してしまう、とんでもなく不幸な物語だ。犯罪映画史上屈指の奇作だと思う。映画それ自体が…

吉田喜重『嵐を呼ぶ十八人』

◆『嵐を呼ぶ十八人』監督:吉田喜重/1963年/松竹/108分 これは、あまり面白くない映画だった。初期の吉田喜重つまり松竹時代の吉田喜重は、資本家と労働者といった階級対立ばかり描いていた。今回の特集上映で、初期作品をまとめて見て感じたのは、ほんと…

吉田喜重『甘い夜の果て』

◆『甘い夜の果て』監督:吉田喜重/1961年/松竹/85分 スタンダールの『赤と黒』をモチーフにした作品だという。津川雅彦が演じる手塚という野心家の青年が挫折をする物語。どこにも行き場所がなく鬱屈する青年というのが、吉田喜重の初期の作品に共通する…

吉田喜重『鏡の女たち』

◆『鏡の女たち』監督:吉田喜重/2003年/グルーヴコーポレーション・現代映画社・ルートピクチャーズ・グルーヴキネマ東京/129分 『ろくでなし』が吉田のはじめての作品だとしたら、『鏡の女たち』は現時点でもっとも新しい作品だ。この二つの作品の間には…

吉田喜重『ろくでなし』

◆『ろくでなし』監督:吉田喜重/1960年/松竹/88分 津川雅彦が「おれは、ろくでなしさ」ということを口にする度に、ほんとの「ろくでなし」の私はドキドキしてしまう。 ラストシーンがゴダール『勝手にしやがれ』と同じ。津川雅彦がベルモンドのように倒れ…

吉田喜重『嵐が丘』

◆『嵐が丘』監督:吉田喜重/1988年/西友・西武セゾングループ・MEDIACTUEL/132分 これは面白い映画。タイトルからも分かるように、ブロンテの『嵐が丘』が原作なのだが、それを日本の中世に置き換えている。この映画のおかげで、『嵐が丘』の原作がすごく…

吉田喜重『女のみづうみ』

◆『女のみづうみ』監督:吉田喜重/1966年/現代映画社・松竹/98分 この映画も『樹氷のよろめき』のように、岡田茉莉子の格好と場所が不釣り合いなのである。それを見ていると、思わず笑いがこみ上げてしまう。けっして笑える映画ではないのだけど。 裕福な…

吉田喜重『情炎』

◆『情炎』監督:吉田喜重/1967年/現代映画社・松竹/97分 ここでの「水」は何か。女は、行きずりの労働者の男を求めて、海岸近くの男の住んでいる洋館へと足を運ぶ。誘惑の「水」と言えるだろうか。夫との仲はすでに破綻しており、夫は女を所有物としてし…

吉田喜重『樹氷のよろめき』

◆『樹氷のよろめき』監督:吉田喜重/1968年/現代映画社・松竹/98分 吉田喜重には女性映画の時代もあって、この時、岡田茉莉子を主演の映画を作っている。吉田自身、父=男性中心の社会を批判する意図があったことを述べているが、これらの女性映画の女性…

吉田喜重『人間の約束』

◆『人間の約束』監督:吉田喜重/1986年/西武セゾングループ・キネマ東京・テレビ朝日/124分 三國連太郎が出演しているので、ついでにこの映画も見てきた。北一輝を演じていた三國連太郎が、一転して老人役。かなりぼろぼろな身体をしていて、不気味な老人…

吉田喜重『戒厳令』

◆『戒厳令』監督:吉田喜重/1973年/現代映画社・ATG/110分 吉田喜重の「政治の季節」の時の作品として『エロス+虐殺』『煉獄エロイカ』そして、この『戒厳令』の三つが作られている。 『戒厳令』の舞台は、昭和の初め、二・二六事件の前後である。このな…

吉田喜重『炎と女』

◆『炎と女』監督:吉田喜重/1967年/現代映画社/103分 たとえば『去年マリエンバードで』のように、非常に抽象化された物語だと感じた。物語は、終始「子供は誰のものか」という問いを巡って展開する。主要な登場人物は二組の夫婦なのだが、両方の夫婦とも…

吉田喜重『エロス+虐殺』

◆『エロス+虐殺』監督:吉田喜重/1969年/現代映画社/168分 昨日に引き続き、この映画の上映後にも吉田喜重と岡田茉莉子のトークショーが行われる。正直、監督自身の解説がなかったら、私はこの映画を少しも理解できなかっただろう。監督は、何度も映画は…

吉田喜重+岡田茉莉子トークショー

第七藝術劇場にて。『秋津温泉』上映後、二人のトークショーが行われる。とても興味深い話を聞くことができて感激。なにしろ一番前の席で聞いていたので。 吉田監督の話で、なるほどと思ったのは、この映画をアンチ・メロドラマとして創ったということだ。ア…

吉田喜重『秋津温泉』

◆『秋津温泉』監督:吉田喜重/1962年/松竹/113分 とても美しい映画。はじめて吉田喜重の作品を見たのだけど、とても良かった。 敗戦間近の時点から物語は始まる。空襲で廃墟となった家に、一人の男がやって来るのが冒頭場面。小津映画のようなローアング…