吉田喜重『情炎』

◆『情炎』監督:吉田喜重/1967年/現代映画社・松竹/97分
ここでの「水」は何か。女は、行きずりの労働者の男を求めて、海岸近くの男の住んでいる洋館へと足を運ぶ。誘惑の「水」と言えるだろうか。夫との仲はすでに破綻しており、夫は女を所有物としてしか思っていない。一方、女にはかつて自分の母親の恋人だった男と交際している。岡田茉莉子はそんな女を演じる。そして、ある時、夫の妹が行きずりの労働者に荒々しく抱かれている場面を見る。そして、自分もまたこの労働者に抱かれることになるだろう。この労働者に襲われたとき、はじめは抵抗を示す。女は逃げる。男は追いかける。だが、この男女の身振りは、吉田映画における「性行為」なのではないかと思う。とりわけ、岡田茉莉子は、男がキスをしようとすれば、一度は顔を背けるし、男が身体を抱けば、必ずその身を男から引き離す。それが、吉田映画の女性であり、岡田茉莉子の演じる女性なのである。