2005-10-01から1ヶ月間の記事一覧

吉村公三郎『地上』

◆『地上』監督:吉村公三郎/1957年/大映/98分/カラー 脚本は新藤兼人。原作は島田清次郎。近代文学史にちょっと詳しい人なら、「島田清次郎」という名を見て、「ああ、あの小説家か」と思うだろう。『地上』は大正時代の大ベストセラーと言われる小説。…

三島由紀夫『反貞女大学』

◆三島由紀夫『反貞女大学』ちくま文庫、1994年12月 「反貞女大学」という女性論と「第一の性」という男性論の二つのエッセイが収められている。 三島の場合、「反貞女」などと、わざと世間の良識に逆らうような言葉を用いて、逆の結果を引き出してくる。つま…

ロバート キャンベル編『読むことの力』

◆ロバート キャンベル編『読むことの力』講談社、2004年3月 「読む」というテーマで12の講義が行われ、最後に「詩を読むよろこび」という鼎談が収められている。哲学から歴史や芸術そして文学まで、幅広い分野から「読む」ことが考察されていく。「読む」と…

三島由紀夫『命売ります』

◆三島由紀夫『命売ります』ちくま文庫、1998年2月 これは傑作。種村季弘の「解説」を読むと、この作品は昭和43年に『プレイボーイ』に発表されたという。三島はちゃんと読者を意識して書いていたことが分かる。種村が言うように、タイトルの『命売ります』な…

豊田四郎『台所太平記』

◆『台所太平記』監督:豊田四郎/1963年/東京映画/110分/カラー 原作は谷崎潤一郎の小説。出演は森繁久彌、淡島千景など。森繁演じる小説家の家の「女中」つまりお手伝いさんたちの行動を描いた物語。「家」のなかで、「女中」という仕事が、戦後の時代に…

三島由紀夫『肉体の学校』

◆三島由紀夫『肉体の学校』ちくま文庫、1992年6月 「妙子」というオートクチュールを営んでいる女性が、年下の男性「千吉」と出会う。上流社会に生きる女性が、貧しいひとりの青年と恋愛をする物語。千吉は、何事にもクールで、未来や過去を持たず、いわばこ…

三島由紀夫「恋の都」

◆三島由紀夫「恋の都」(『決定版三島由紀夫全集4』新潮社、2001年3月、所収) 間諜物と言って良いのか。戦時中に右翼であった青年が、戦後の混乱でアメリカの特務機関で働くことになった「五郎」。戦時中、この五郎と出会い恋に落ちた女性「まゆみ」。まゆ…

吉村公三郎『千羽鶴』

◆『千羽鶴』監督:吉村公三郎/大映/1953年/111分 この物語の原作は川端康成の『千羽鶴』(ISBN:4101001235)。脚本が吉村公三郎と組む新藤兼人。撮影は宮川一夫。出演は、木暮実千代、乙羽信子、森雅之、杉村春子。 私は原作の川端の小説がとても好きなので…

吉村公三郎『夜の蝶』

◆『夜の蝶』監督:吉村公三郎/1957年/大映/90分/カラー 脚本を田中澄江が書き、撮影を宮川一夫が担当。出演は、船越英二、京マチ子、山本富士子。夜の銀座を舞台にした女の争いを描いた映画といえば、成瀬巳喜男にも『女が階段を上る時』という名作があ…

三島由紀夫「につぽん製」

◆三島由紀夫「につぽん製」(『決定版三島由紀夫全集4』新潮社、2001年3月、所収) これはかなり面白い小説。パリで勉強をして帰国した新進のファッション・デザイナーの「美子」と、柔道家の「正」の恋愛物語。正は絵に描いたような実直な青年。一方美子は…

吉村公三郎『わが生涯のかゞやける日』

◆『わが生涯のかゞやける日』監督:吉村公三郎/1948年/松竹大船/101分 山口淑子、森雅之、滝沢修が出演。この3人が、物語の中心人物になる。3人ともすばらしい演技で魅力的。私は、はじめて山口淑子の出演している映画を見たのだが、なるほど日本人離れし…

磯田光一『思想としての東京』

◆磯田光一『思想としての東京――近代文学史論ノート』国文社、1978年10月 都市論といえば広い意味で都市論なのだろうけど、副題にちゃんと「近代文学史論ノート」とあるように、やはりこの本は文学評論だ。「地方としての東京」と「中央としての東京」という…

ジル・ドゥルーズ『マゾッホとサド』

◆ジル・ドゥルーズ(蓮實重彦訳)『マゾッホとサド』晶文社、1973年7月 マゾッホとサドの二人について、というよりマゾッホについての本だった。ここでドゥルーズが批判しているのは、「サド=マゾヒスム」という一つの単位であり、この単位は錯覚にすぎない…

三島由紀夫『英霊の聲』

◆三島由紀夫『英霊の聲』河出文庫、2005年10月 もとの本は1966年に出ている。「二・二六事件三部作」という形の本。「英霊の聲」と「憂国」と「十日の菊」の三つの作品に、「二・二六事件と私」という三島自身による解説のようなエッセイが付されている。 「…

吉村公三郎『誘惑』

◆『誘惑』監督:吉村公三郎/1948年/松竹大船/85分 原節子、佐分利信、杉村春子が出演。佐分利信は政治家役で、彼の恩師の娘役を原節子が演じる。父の死によって、久しぶりに再会した二人が、やがて恋愛に陥る。だが、佐分利信には胸を病んで療養所の入院…

吉村公三郎『安城家の舞踏会』

◆『安城家の舞踏会』監督:吉村公三郎/1947年/松竹大船/89分 脚本は新藤兼人。吉村=新藤コンビによる初めての作品。戦後の改革で没落する貴族、安城家を描いた物語。娘役に原節子、父親役に滝沢修。シニカルな息子を森雅之が演じている。この娘と父が、…

吉村公三郎『暖流』

◆『暖流』監督:吉村公三郎/1939年/松竹大船/124分 主な出演は、高峰三枝子と水戸光子。この二人から愛される男に佐分利信。戦前、この映画はかなり話題になった映画だという。高峰三枝子と水戸光子のどちらの恋愛が良いかということで人気が出たのだ。 …

三島由紀夫『三島由紀夫のレター教室』

◆三島由紀夫『三島由紀夫のレター教室』ちくま文庫、1991年12月 「レター教室」というタイトルだが、三島が手紙の書き方を伝授する本ではなく、れっきとした小説。つまり、これは書簡体の小説なのである。 登場人物は5人。「氷ママ子」と「山トビ夫」。「空…

三島由紀夫「夏子の冒険」

◆三島由紀夫「夏子の冒険」(『決定版三島由紀夫全集2』新潮社、2001年1月、所収) 「夏子の冒険」は、昭和26年に『週刊朝日』で連載された。「夏子」という「わがまま」な娘が、凡庸な生活に飽き飽きして、突如「修道院」に入ると宣言。だが、「修道院」に…

三島由紀夫『新恋愛講座』

◆三島由紀夫『新恋愛講座』ちくま文庫、1995年5月 この本には、「新恋愛講座」「おわりの美学」「若きサムライのための精神講話」の3つの文章が収められている。「おわりの美学」と「若きサムライ…」の2つは、別の本で読んだ記憶がある。このあたりの文章に…

三島由紀夫『外遊日記』

◆三島由紀夫『外遊日記』ちくま文庫、1995年6月 三島の紀行文を集めたもの。文庫の解説(田中美代子)を参照すると、三島は世界旅行を3回やっているという。1回目は、昭和26年12月から半年間ほど。北米、南米、そしてヨーロッパをまわって帰国。2回目は、昭…

広田照幸『教育言説の歴史社会学』

◆広田照幸『教育言説の歴史社会学』名古屋大学出版会、2001年1月 私はいわゆる《言説分析》という研究方法が気になっている。《言説分析》の長所と短所が知りたいのだが、どちらかといえば《言説分析》の短所のほうが気になる。《言説分析》の限界は何か。 …

三島由紀夫『三島由紀夫のフランス文学講座』

◆三島由紀夫『三島由紀夫のフランス文学講座』ちくま文庫、1997年2月 鹿島茂の編集。鹿島氏は三島を「戦後最高の批評家」と評している。「最高」かどうかはともかく、たしかに三島の文学評論はけっこう面白い。 やはり、ラディゲに関する文章がたくさんある…

山中貞雄『人情紙風船』

◆『人情紙風船』監督:山中貞雄/1937年/PCL=前進座/86分 『丹下左膳余話』が《明》の作品だとしたら、この『人情紙風船』は《暗》の作品だと言えるだろう。『丹下左膳余話』は、終始笑いに包まれた喜劇だったのに対し、『人情紙風船』は、物語の舞台とな…

三島由紀夫『三島由紀夫の美学講座』

◆三島由紀夫『三島由紀夫の美学講座』ちくま文庫、2000年1月 谷川渥の編集。三島の美術に関する文章をまとめたもの。三島が「美」やさまざまな絵画や美術館について語っていて興味深い。特に「西洋の庭園と日本の庭園」という庭園の比較文化の文章は、面白か…

亘明志『記号論と社会学』

◆亘明志『記号論と社会学』ハーベスト社、2004年12月 もとは『記号論と社会学――記号論の彼方/外部としての権力』というタイトルで、広島修道大学総合研究所の研究叢書の一つとして、1986年に出た本。良い本らしいというのは知っていたのだけど、なかなか手…

三島由紀夫『鍵のかかる部屋』

◆三島由紀夫『鍵のかかる部屋』新潮文庫、1980年2月 短編小説集。10代に書かれたものから、死の直前に書かれたものまで、広範囲にわたる。したがって、三島の作風の変化を窺うこともできるだろう。 新潮文庫の三島の作品で未読の作品を全部読もうと思って、…

三島由紀夫『小説家の休暇』

◆三島由紀夫『小説家の休暇』新潮文庫、1982年1月 エッセイ集・評論集。文庫本の解説の田中美代子は、「三島由紀夫の批評は、ともすればその華やかな作家活動の蔭にかくれ、第二義的なジャンルのようにみなされがちであるが、折りにふれて発表された評論やエ…

小谷野敦・斎藤貴男・栗原裕一郎『禁煙ファシズムと戦う』

◆小谷野敦・斎藤貴男・栗原裕一郎『禁煙ファシズムと戦う』KKベストセラーズ、2005年10月 たばこなんて吸ったことがないし、興味もないのだけど、タイトルに「ファシズム」とあるので、これはただ事ではないと思って読んでみた。本書を読む限りでは、分煙す…