三島由紀夫『三島由紀夫の美学講座』

三島由紀夫三島由紀夫の美学講座』ちくま文庫、2000年1月
谷川渥の編集。三島の美術に関する文章をまとめたもの。三島が「美」やさまざまな絵画や美術館について語っていて興味深い。特に「西洋の庭園と日本の庭園」という庭園の比較文化の文章は、面白かった。
三島はここで、西洋の庭園と日本の庭園を「空間的要素」と「時間的要素」に分けて論じる。三島は、西洋の庭園には「時間」の要素を導入しなかったことが大きな特色であると見る。時間を導入すれば、形態が腐食し、秩序が崩壊する。モニュメントは無効になるからだ。西洋の君主にとって、「庭がどこかで終わる、庭には必ず果てがある」という観念ほど恐ろしいものはない。したがって、空間を支配し、空間を構造で埋める。「ヴェルサイユの庭はその極致である。」(p.74)
一方で、三島は日本の庭が持つ秘密は、「終らない庭」「果てしのない庭」の発明であるとする。それは、日本の庭の特徴である「時間」の要素を導入したことによるのではないかと三島は言う。たとえば「橋」である。「橋は必ず此岸から彼岸へ渡すのであり、しかも日本の庭園の橋は、どちらが此岸でありどちらが彼岸であるとも規定しない」。したがって、日本の庭の「時間」は「可逆性」を持つことになる。われわれは、過去に戻ることも、未来へ行くことも自由であると。「橋を央にして、未来と過去はいつでも交換可能なものとなるのだ。」(p.76)
空間を離脱しても、また戻ってくることが出来る。三島は、このように時間の回帰運動を日本の庭に見出していた。この庭の「時間」を「豊饒の海」に結びつけるのは容易なことだと思う。

三島由紀夫の美学講座 (ちくま文庫)

三島由紀夫の美学講座 (ちくま文庫)