三島由紀夫「夏子の冒険」
◆三島由紀夫「夏子の冒険」(『決定版三島由紀夫全集2』新潮社、2001年1月、所収)
「夏子の冒険」は、昭和26年に『週刊朝日』で連載された。「夏子」という「わがまま」な娘が、凡庸な生活に飽き飽きして、突如「修道院」に入ると宣言。だが、「修道院」に向けて旅立つ時に出会った青年「毅」に興味を持つ。「毅」は、北海道の人殺しの熊を退治に出かけるところだった。この熊退治は、毅にとっては仇討ちで、その「情熱」がすさまじい。毅の「情熱」に刺激された夏子は、修道院入りを止めて、毅と一緒に熊狩りの冒険に出かける。夏子の行動に振り回される、夏子の祖母、母、伯母などが登場したりして、全体はコメディタッチに仕上がっている。三島の通俗的な作品の一つであろう。
見事に毅は熊を退治し、夏子との恋も成就したかのように思えたが、ラストでどんでん返しの展開になる。夏子との結婚生活の夢を語る毅に、旅の出発時に見た「情熱」が失われていると気が付いた夏子は、今や凡庸となった毅に幻滅する。そして、またも物語の冒頭のように、「夏子、やつぱり修道院へ入る」と宣言する。こうして、物語の冒頭と結末が対応して閉じられる。平凡さ、凡庸さに耐えられず、「情熱」を求めてしまう夏子は、典型的な三島的人物だと言えるだろう。
- 作者: 三島由紀夫
- 出版社/メーカー: 新潮社
- 発売日: 2001/01
- メディア: 単行本
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