三島由紀夫『三島由紀夫のレター教室』

三島由紀夫三島由紀夫のレター教室』ちくま文庫、1991年12月
「レター教室」というタイトルだが、三島が手紙の書き方を伝授する本ではなく、れっきとした小説。つまり、これは書簡体の小説なのである。
登場人物は5人。「氷ママ子」と「山トビ夫」。「空ミツ子」に「炎タケル」。そして「丸トラ一」である。彼らが、互いに手紙を出し合い、その手紙によってさまざまな事件が起き、最終的に「氷ママ子」と「山トビ夫」という中年のカップルと「空ミツ子」と「炎タケル」の若いカップルが成立してハッピーエンドとなる。唯ひとり、カップルになれない「丸トラ一」は、いわば道化者といった役で、一見すると間の抜けた鈍感な男だが、彼の活躍で二組のカップルが成立することになる。
この「丸トラ一」は、作者によって「楽天的」な性格と言われ、大学を三年も留年しているが、テレビを見て食べるのが好きという怠け者という人物。さらに、身体を動かすことが苦手だが、逆に身体を動かさないことならけっこうマメに働く。ペン・フレンドがたくさんいて、おまけに切手の収集家でもあるという。趣味が時代を反映しているが、「丸トラ一」は現代なら「おたく」と呼ばれてもおかしくない。そういう意味では、なかなか興味深い人物だと思う。

三島由紀夫レター教室 (ちくま文庫)

三島由紀夫レター教室 (ちくま文庫)