三島由紀夫『新恋愛講座』

三島由紀夫『新恋愛講座』ちくま文庫、1995年5月
この本には、「新恋愛講座」「おわりの美学」「若きサムライのための精神講話」の3つの文章が収められている。「おわりの美学」と「若きサムライ…」の2つは、別の本で読んだ記憶がある。このあたりの文章になると、三島は「文化」や「伝統」について熱心に語り始めている。「文化」や「伝統」を受動的に守るのではなくて、自ら率先して、つまり主体的に守ることが大切なんだと主張するのだ。もちろん、三島は「文化」とか「伝統」というものが、ある時期に創られたものであることを充分承知の上で、主張していることを忘れてはならない。

 私はエチケットばかりでなく、平和運動でも、政治運動でも、ほんとうに解放された自由な主体的な女性ならば、自分をかつて苦しめた伝統を、自分がかつてその被害者であったところの伝統を、もはや被害者になるおそれがない現代において、そこから新しい意味を見つけ出してそれを再創造し、世界に向って日本の伝統の美しさを示すような役割を、自分で進んで引受けてほしいと思うものである。(p.285)

三島には、一貫して「反=自然(主義)」というものがある。放っておくと、人工である「伝統」は「自然」に浸蝕されてしまう。「伝統」を「自然」の崩壊から守ることが必要であると、三島は主張している。三島の場合、本質主義的な考え方をするので、安易に三島の思想を擁護するのは危険なのだが、私は以前から三島の「反=自然」、「人工性」の強調という点に強い関心を持っている。どうにかして、もう一度使える思想にできないかなと思うのだが…。

新恋愛講座―三島由紀夫のエッセイ〈2〉 (ちくま文庫)

新恋愛講座―三島由紀夫のエッセイ〈2〉 (ちくま文庫)