青山真治『ホテル・クロニクルズ』

青山真治『ホテル・クロニクルズ』講談社、2005年3月
死の谷'95』がまあまあ面白かったので、『ホテル・クロニクルズ』も読んでみた。紀州那覇ランカウイ、ホノルル、金沢、ソウル、横浜を舞台に、それぞれの土地でそれぞれの物語が語られていく。この小説は、「場所」が主人公の物語と言っても良い。たとえばこの小説のなかでも暗に言及される「中上健次」のように、一つの「場所」を中心にして語られる物語ではなく、そのような特権的な「場所」を排し、「場所」を複数化している点が面白いと思う。
また幻想譚と言える物語がいくつかある。たとえば金沢での物語は、泉鏡花のような雰囲気があったし、最後の横浜の物語も夢と現実が複雑に入り組んだ物語で感心した物語の一つだ。一番はじめの章である「ブラックサテン」の冒頭は「眠ってしまったことに気づいたのは、Tさんからの携帯電話の着信音でだった(p.7)」とあり、この小説の主題のひとつに、「眠り」があることは間違いない。

ホテル・クロニクルズ

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