小川洋子『博士の愛した数式』

小川洋子博士の愛した数式新潮文庫、2005年12月
ずっと読みたいと思っていた小説で、文庫になったら買おうと待っていた本。待ちに待った小説なので一気読み。評判通り面白い小説だった。やはり小川洋子は上手い。
数学と文学を組み合わせも興味深い。世界は編み物のように織られたもの、というのが小川洋子の世界観だと思う。言葉によって織られたものを「文学」と呼ぶのであれば、数字や数式で織られたものが「数学」と呼ばれるものなのだろう。小川洋子の手にかかると、数式がロマンチックになり、数字が官能的になるのだから不思議だ。
そして、もう一つ重要なモチーフが「記憶」で、もちろん「博士」の記憶が80分しかもたないという設定も重要だが、この物語そのものが回想であること、つまり語り手の「私」が博士と息子の「ルート」の3人で過ごした日々を思い出しながら語っているということも重要なのだろう。記憶を失ってしまう物語を、記憶を辿りながら語るという「ねじれ」が面白い。

博士の愛した数式 (新潮文庫)

博士の愛した数式 (新潮文庫)