阿部和重『シンセミア』

ひさしぶりに『シンセミア』を読み直してみた。やはり、この小説はすごい。
ところで、『シンセミア』を読んでいたらフォークナーの『八月の光』が気になった。隈元光博と田宮彩香の出会いはこうだ。場所は書店で、光博がいきなり彩香に「金を貸してくれ」と頼む。変な人だと思って一旦は逃げる彩香だが、気になって光博に近づく。そこで彩香がふと手にする本が『八月の光』だった。彩香はこの時偶然にこの本を手にしたとはいえ、これは物語特に彩香の物語にとっては重要な出来事ではないだろうか。この後の彩香の運命(と光博の生い立ち)を考えると、『八月の光』は二人にとって予言的な書物だと言える。