ヴァルター・ルットマン『伯林大都会交響楽』

◆『伯林大都会交響楽』監督:ヴァルター・ルットマン/原案:カール・マイヤー/1927年/ドイツ/60分
ベルリンの一日をコラージュした映像作品。この映画は、当時かなり注目された作品だと思う。日本でもけっこう話題になっていたのではないだろうか。
この映画の見所は冒頭場面であろう。ベルリンへ向かう汽車が疾走している場面だ。短いショットで構成されたこのシーンは、走る汽車、線路、流れる景色などの映像が巧みにモンタージュされ、非常にスピード感溢れるダイナミックな場面となっている。この冒頭場面は、当時の人々に衝撃を与えたのではないだろうか。たとえば勝本清一郎は「先づ映画物語風に――新ベルリン風景」(1930年)という文章を書いている。この文章の冒頭には「ベルリンへ!/ベルリンへ!/ベルリンへ!」という三行の文章があるが、勝本はこれを一行ごとに文字のサイズを大きくするという表現で書いた。そうして、『伯林大都会交響楽』の冒頭場面を模倣していたのである。
この映画はやはり20年代の作品らしく、「機械」の主題が見られる。「機械」の動きと人間の動きが対比され、「機械」化される人間(社会)が批評的に描かれる。モダニズムでは、「機械」の主題が重要なのだが、それは「機械」化による「人間」(あるいは「精神」)の危機という不安があったからなのだろう。
ところで、1920年代が「機械」化の時代ならば、さしずめ現代は「動物」化の時代ということになるだろう。技術の発達は、常に「人間」という概念を脅かす。しかし、「人間」が「波打ちぎわの砂の表情」にすぎないとしたら、「人間」が「機械」になろうが「動物」になろうが、それは危機でも不安でもないのだろう。モダニズムポストモダニズムの差異は「機械」と「動物」の違いにあるのだろうか。