谷崎潤一郎『台所太平記』

谷崎潤一郎『台所太平記』中公文庫、1974年4月
この前、豊田四郎監督による映画『台所太平記』を見て、原作が気になったので読んでみた。小説もかなり面白い。
考えてみると、「女中」は日本の近代文学において重要というか注目すべきテーマであったのだ。文庫の解説を書いている阿部昭が、志賀直哉の『大津順吉』で主人公が女中に手を出し家庭内にいざこざを起すと述べているように、女中との関係が物語を生みだしてきたと言えるだろう。阿部昭は、この物語を「「女中」から「お手伝いさん」への移り変り」を描いた「女中衰亡史」であると同時に「日本語の衰亡史」であるところに、この小説の「反時代的な真骨頂がある」としている。この解釈にもう一つつけ加えておくと、この小説は、日本近代文学における「女中」物語の衰亡史であることも重要であろう。
「女中」という言葉の衰亡や、家庭内の「女中」という役割の消滅といった外的要因が、「女中」物語を「死」へ導いたわけだが、谷崎はこの小説を通じて「女中」物語に対するノスタルジーを描いたのだろうか。

台所太平記 (中公文庫)

台所太平記 (中公文庫)