四方田犬彦編『吉田喜重の全体像』

四方田犬彦編『吉田喜重の全体像』作品社、2004年8月
吉田喜重の全体像というタイトル通り、初期作品から『鏡の女たち』までを、5人の論者が論じた本格的な吉田喜重論集となっている。
私が面白い、興味深いと感じた論文は次のものである。
岡田茉莉子を論じた斎藤綾子の「女性と幻想―吉田喜重岡田茉莉子」。吉田喜重の小津論を参照しながら、吉田が小津から何を継承したのかを論じた木下千花「継承と断絶―吉田喜重小津安二郎」。四方田犬彦の3本の論文「母の来歴―『エロス+虐殺』」「『嵐が丘』と継承の問題」「母の母の母」は、四方田お得意の物語論となっており、物語を腑分けし分析する手際の良さに脱帽する。『エロス+虐殺』は、私には難解な作品で、いったいどんな映画だったのか理解できなかったので、四方田の論文は非常に参考になった。
最後に、この本のもとになったシンポジウムでの吉田喜重の講演内容があり、吉田のフィルモグラフィーをはじめとした詳細なデータが収められており、今後の吉田喜重研究にとって重要な論文集になっている。

吉田喜重の全体像

吉田喜重の全体像