吉田喜重『さらば夏の光』

◆『さらば夏の光』監督:吉田喜重/1968年/現代映画社/97分
ヨーロッパで彷徨う男と女。登場人物たちのオフの声が響く。ある時期、おそらく女性の映画を撮るようになったころから、吉田はオフの声を使うようになった。オフの声と映像を対立させるように、そして映画を物語を攪乱させようとしているかのようだ。どこかアフォリズムめいた登場人物の内面の声が、画面と激しく対立する。それによって、映画は一つに収斂せず、ただひたすら拡散していくばかり。観客に残されているのは、美しい映像と声だけだ。登場人物たちがヨーロッパの地で彷徨しているように、われわれ観客もまた物語中を彷徨しつづけるしかない。