吉田喜重『甘い夜の果て』

◆『甘い夜の果て』監督:吉田喜重/1961年/松竹/85分
スタンダールの『赤と黒』をモチーフにした作品だという。津川雅彦が演じる手塚という野心家の青年が挫折をする物語。どこにも行き場所がなく鬱屈する青年というのが、吉田喜重の初期の作品に共通するキャラクターか。あるいは、当時の青年たちの反映なのか。
この手塚という青年は、行き詰まると人のいない競輪場に行き、そこをオートバイでぐるぐると疾走する癖がある。これが、青春の残酷な物語に反して、爆笑ものの場面なのである。この姿はどうみてもギャグだろ!としか思えない。手塚という青年の頭の悪さを図らずも証明してみせているのだ。したがって、彼がどんなに策を練って、出世しようと奮闘しても、それが早晩挫折するのは目に見えている。
手塚は、また観覧車にも乗るのだが、これもぐるぐると同じところを回転するだけだ。手塚は円環運動に囚われており、最後までその円環から逃れられない。
それにしても、この時期の津川雅彦は、いつもまっすぐに立てなくなってしまう。挫折とは、自分の力ではもはや身体を支えれないほど脱力した、ふにゃふにゃな身体にすぎない。津川雅彦という俳優は、酔っぱらってフラフラと歩き回る身体しか持たない。このような身体は、この時代つまり60年代の日本映画に流行していたのではないか、時代の表象なのではないか、そんなことを考えてしまう。