谷崎潤一郎『武州公秘話』

谷崎潤一郎武州公秘話』中公文庫、1984年7月
1931年から32年にかけて『新青年』に連載された作品。谷崎らしい作品。
武州公は、すぐれた武人であったのだが、実は「被虐性的変態性欲」の持主だった。しかし、公の変態性欲の裏には、「秘話」があった。語り手は、「秘録」を読んで、公の隠されたプライベートの面がわかったという。そこで、ここで武州公の秘話を読者に語ってみせよう。――このような感じで物語が始まる。
「首」特に「鼻」の着られた「首」に執着する武州公、初恋の女性との共謀による復讐譚など、グロテスクな欲望、サド・マゾ的な物語が綴られる。架空のネタ本をもとに物語を語るという手法も面白い。「鼻」という主題や、この物語の語りの方法は、やはり芥川を意識したものなのだろう。

武州公秘話 (中公文庫)

武州公秘話 (中公文庫)