稲葉振一郎『「資本」論』

稲葉振一郎『「資本」論――取引する身体/取引される身体』ちくま新書、2005年9月
ずっと積ん読状態にあったのだが、来週に迫ったトークセッションのために読んでみた。「所有」、「市場」、「資本」を順々に整理したあと、第4章で「人的資本」論に入る。この第4章が、本書の中心となるのだろう。そして、ここで主張されるのが「労働力=人的資本」という論である。
それは人を「剥き出しの生」として取り扱われることから防ぐ手立てとしてである。そこには、「人に対して権力的に介入するにせよ、そうした介入はまずはその財産に対して、財産を媒介として行い、直接に「剥き出しの生」、内面、プライバシーに踏み込むことは避ける」(p.251)といった考えがある。また、マルクス主義の批判的な検討から、「資本主義は不平等と疎外を生む仕組みだが、だからといってそれを丸ごと拒絶し、オルタナティヴな社会システムを目指すべきではなく、そのうちにとどまるべきだ」として、だから「私的所有」にこだわり、「財産所有者として戦うことこそ求めている」(p.281)とも述べられている。
この考えに共感はするが、その一方でまだ何か問題点が残されていないか考えてみたい。

「資本」論―取引する身体/取引される身体 (ちくま新書)

「資本」論―取引する身体/取引される身体 (ちくま新書)