小谷野敦『なぜ悪人を殺してはいけないのか』

小谷野敦『なぜ悪人を殺してはいけないのか 反時代的考察』新曜社、2006年3月
評論集。本書は3部に分かれていて、第1部では「復讐論」として死刑制度についての考察。死刑廃止論批判。第2部は天皇制について。天皇制批判。ファンタジー君主制の親和性を論じた「ファンタジー君主制の夢を見るか?」や、漱石の『こころ』を二流の作品といい、「乃木殉死」を漱石の保身の作為にすぎないという氏の仮説(p.147)を論じた「夏目漱石の保身」は非常に興味深い。第3部は、文化論などで、「オリエンタリズム」に対する批判、文化相対主義への批判をしている「「オリエンタリズム」概念の功過」は、文化論を研究する人に参考になる論である。いつものように、小谷野氏の評論は、資料や研究書を丹念に集めて読み込んでいるので、その点に関しては頭が下がる。
だが、その小谷野氏もカナダの留学のときには、鶴田欣也に厳しい批判を受けていたというのは驚きで、なんとも学問の世界は厳しいものだとあらためて思った。そのカナダ留学の顛末を語った「カナダ留学実記」は、私など涙なくして読めない。

なぜ悪人を殺してはいけないのか―反時代的考察

なぜ悪人を殺してはいけないのか―反時代的考察