村上春樹『ねじまき鳥クロニクル 第3部鳥刺し男編』

村上春樹ねじまき鳥クロニクル 第3部鳥刺し男編』新潮文庫、1997年10月
ようやく「ねじまき鳥クロニクル」を全部読み終えた。第3部はおもしろくて、『世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド』以来の興奮を味わったが、でも何かが物足りない。
結局、3部を通して、どういう物語だったのだろうかと考えるに、それを端的に言い表わしているのは、つぎの「僕」の言葉であろうか。

「つまりね、今回の一連の出来事はひどく込み入っていて、いろんな人物が登場して、不思議なことが次から次へと起こって、頭から順番に考えていくとわけがわからない。でも少し離れて遠くから見れば、話の筋ははっきりしている。それは君が僕の側の世界から、綿谷ノボルの側の世界に移ったということだ。大事なのは、そのシフトなんだ。(省略)」(p.457)

要するにこの物語は、「僕」の妻である「クミコ」が「僕の世界」から「綿谷ノボルの世界」へと移動する物語、あるいは「綿谷ノボルの世界」へ行ってしまった「クミコ」を「僕」が取り戻そうとする物語といえるだろう。
そうすると問題は、「僕の世界」とは何か、「綿谷ノボルの世界」とは何かということになる。これがまだ私にはよく分からなかった。単純に善と悪の世界というわけではなさそうで、「綿谷ノボルの世界」が悪だとしても、それでは「僕の世界」が善なのかというと、そうだと断言できそうにない。
全部読み終えても、すっきりしない。謎というか、それこそこの物語で重要な「暗闇」が、ずっと残されたままだ。

ねじまき鳥クロニクル〈第3部〉鳥刺し男編 (新潮文庫)

ねじまき鳥クロニクル〈第3部〉鳥刺し男編 (新潮文庫)