稲葉振一郎・松尾匡・吉原直毅『マルクスの使いみち』

稲葉振一郎松尾匡・吉原直毅『マルクスの使いみち』太田出版、2006年3月
本書は三つの章で構成されている。第一章では、マルクス主義や反経済学から新古典派経済学へに批判がいろいろあったが、それでも新古典派は有用で、新古典派をきちんと押えた議論が必要なんだということが強調される。第二章では、新古典派を使った新たなマルクス主義ということで、ローマーが登場する。「搾取」の概念をめぐって、ローマーの仕事が解説される。第三章は、公正論、分配的正義論の議論となっている。
全体的に議論の内容が難しい。経済学音痴の「人文系ヘタレ」の私には、特に吉原直毅氏の話はついていくのが大変だった。もう少し啓蒙的な話になってくれれば良かったのになあと思う。
それから、結局稲葉氏が「はじめに」で述べた「人文系インテリに対して「なぜあえて、新古典派の土俵にとどまり、数理分析をコアに据えたマルクス主義なのか」を納得のいく形で説明するという課題」(p.19-20)が、うまく達成できていないように感じられた。たしかに、第2章で取り上げられているローマーなどは、非常に面白そうな話だと思う。本書は、さまざまな経済学の知見が鏤められており、「ああ、今、すごく面白い研究がなされているのだな」という雰囲気は伝わってくるのだが、ではそれらを使ってどうしたいのか、どんな成果を生み出そうというのかが、はっきりと分からなかった。――私の理解不足が原因なのかもしれないが。

マルクスの使いみち

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