保坂和志『草の上の朝食』

保坂和志『草の上の朝食』中公文庫、2000年11月
石川忠司は、解説のなかで、本作をプラトンの『饗宴』の「現代ヴァージョン」だと指摘している。

『草の上の朝食』は『饗宴』の現代ヴァージョンだ。保坂和志はここで二十世紀末ならではの「愛」を発見しようとしている。世界をわくわくさせ勇気づけるための「愛」を。するとアキラやよう子や島田やゴンタたちはギリシアの哲人に相当することになるが、なるほどそう考えて見ると、彼らが妙に飄々として誇り高いのもうなずける。(p.294)

このようにいわれてみると、たしかに、本作の登場人物すなわちアキラやよう子、島田やゴンタたちが、ギリシアの哲人に思えてくる。自意識の強いアキラに、近所の猫にエサを与えることを日課としているよう子。島田は家にいるだけなのに、なぜか会社を首にならないでいるし、ゴンタは8ミリビデオを撮り続けていたと思ったら、キーボードを拾ってくると、今度はひたすらキーボードを弾き続けているような人物だ。
これらの人物の比べて、平日は会社に行っている主人公の「ぼく」はまだまともな人物かもしれない。しかし、仕事が暇なときは会社を抜け出して、喫茶店で出会いつきあい始めた女性「工藤さん」とのセックスを日課にしようとした人物でもある。どの人物も一癖もっている。こんな人たちが共同生活をしている家。この家は正直非常にうらやましい。みんな、いったいどうやって生きているのか不思議に思う。劇的な出来事が起きなくても、季節のちょっとした変化に気がつくだけで、充分に満足を得られるような、そんな生活がすばらしい。

草の上の朝食 (中公文庫)

草の上の朝食 (中公文庫)