成瀬巳喜男『放浪記』

◆『放浪記』監督:成瀬巳喜男/1962年/宝塚映画/117分
林芙美子原作。林芙美子の自伝的な作品だが、この林芙美子の役を高峰秀子が演じている。近眼で猫背の冴えない風貌の人物を、高峰秀子が演じていたのが面白い。貧乏で、子どものころから親子で放浪生活をし、大人になってからもカフェの女給などをしながら文学を志す芙美子。このような貧乏生活を描いたのが『放浪記』という小説となって出版される。そして作家として認められ、売れっ子の作家になったところで映画は終わる。
文学の仲間たちがけっこう陰湿で、芙美子がいないところでは、貧乏生活ばかりを書いていると馬鹿にしていたりする。こういうドロドロした人間関係は、見ているほうもつらい。おまけに、芙美子が好きになる男はダメな男ばかり。同じく売れない作家であった男との生活では、男が才能がないゆえに、それを芙美子にあたる。このへんの男の身勝手さは、『杏っ子』に出てきた才能のない夫と同じだ。そんな生活のなかから、作家として成功したような芙美子だが、どうも最後の場面を見ているとそれで幸せになったとは思えない。見終わっても、なんだか暗い気分になる。