豊田四郎『恍惚の人』
◆『恍惚の人』監督:豊田四郎/1973年/芸苑社/102分
原作は有吉佐和子。出演は、森繁久彌、高峰秀子、田村高廣など。脚本を松山善三が書いている。老人性痴呆症をテーマにした作品。悪い作品だとは思わないし、テーマも先駆的だったのだと思うが、高峰秀子にせよ乙羽信子がイマイチ。
ところで、私以外の観客はお年寄りの方だったのだが、映画の上映中はなんだかなあという気分になってしまう。
というのは、物語中で、テーマがテーマだけに数々の奇行が演じられるわけだが、その度に、お年寄りの観客から笑いが起きていたからだ。たしかに、森繁の演じた老人の言動は面白いけれど、お年寄りが痴呆のお年寄りを笑うという構図が、なんとも言えない居心地の悪さを感じさせたのだ。これは、グロテスクな光景だなと。
別に、「テーマがテーマなんだから真面目に見ろ!」と言いたいわけではないのだが…。
こんなことを感じたのは、私が「お年寄り=弱者」であるという偏見を持っているためなのだろうか。そして、「弱者」が「弱者」を笑えるのか、と私が勝手にお年寄りの観客を批判しただけなのか。勝手にお年寄りを弱者と決めつけた私のほうこそ、批判されるべきなのかもしれない。
しかし、それでも釈然としない。