講談社文芸文庫編『戦後短篇小説再発見7』

講談社文芸文庫編『戦後短篇小説再発見7 故郷と異郷の幻影』講談社文芸文庫、2001年12月
第7巻のテーマは、「故郷」。この巻の解説を書いた川村湊によると、1930年代は「故郷回帰」ブームだったという(p.305)。国内では都市化の進行があるし、国外に目を向ければ、植民地の拡大に伴い海外へ旅立つ人も増えた。こうした背景が、日本人に「故郷」としの「日本」を強く意識させる結果につながった。
この巻を通読して感じたのは、人が「故郷」や「異郷」を意識するのは何と言って「言語」の違いを感じた時なのだなということだ。言葉のズレが、故郷という幻想を、物語を生み出すのだろうと。それはなにも外国語の問題だけではなく、方言による差異も重要なのだ。「故郷」を問題にするとき、その物語をどの言葉を用いて書くのかということが作家にとって大きな問題となるにちがいない。どの言葉を選択するかによって、「故郷」と作家の関係が見えてくるのではないだろうか。

  • 井伏鱒二「貧乏性」…○、「リンセン」という父の言葉が主題。
  • 長谷川四郎シルカ」…○、大陸で捕虜であった話。
  • 小林勝「フォード・一九二七年」…×、植民地での「日本人」の惨めさ。銃にしか頼れないのだ。
  • 木山捷平「ダイヤの指輪」…○、旧満州の混乱のなかで生き抜く人々。
  • 辻邦生「旅の終り」…○、異国での出会いと交流。
  • 石牟礼道子「五月」…◎、水俣病の患者の声と、そのなかに挿入されている医学雑誌の声。二つの声の違いに注目する。
  • 五木寛之「私刑の夏」…○、「脱出もの」と言えばよいのか、要するに敗戦によって、大陸から逃げ出さざる得ない人々の悲惨な物語。
  • 森敦「弥助」…△、名誉もただの慰めにしかならない現実。
  • 林京子雛人形」…△、旅する雛人形
  • 光岡明「行ったり来たり」…×、つまらない。
  • 小田実「『アボジ』を踏む」…◎、いわゆるポストコロニアル文学。
  • 島田雅彦「ミス・サハラを探して」…△、旅行記