成瀬巳喜男『めし』

『めし』監督:成瀬巳喜男/1951年/東宝/97分
原作は林芙美子。出演は、原節子上原謙など。きょうからシネ・ヌーヴォ成瀬巳喜男特集がはじまる。シネ・ヌーヴォは8周年を迎えて昨日リニューアルしたそうだ。座席シートが新しくなっていた。正直、今までのシートは小さくて、座り心地が悪かったのだけど、今度のシートはやや大きめなサイズになり、クッションの心地も良く、長時間の鑑賞でも身体が辛くならないと思う。まだリニューアルは完全に終わっておらず、来週はスクリーンも新しいものに変えられるという。
さて、成瀬巳喜男特集の『めし』の上映から始まった。『めし』は、大阪が舞台ということで、この映画から始めることにしたという。
原節子と上原兼が夫婦役で、東京から大阪に転勤してきたという設定。給料がそれほどなく、生活は苦しい状態。台所と居間の往復という専業主婦の日常に、やや疲れをみせる原節子。そんななか、夫の姪であるさとこが、東京から家出をしてくる。さとこの自由奔放な振る舞いに夫婦は掻き回され、夫との仲がうまくいかなくなり、妻の原節子は東京の実家へ飛び出してしまう。物語は、女の人生とは、女の幸福とは何かを問う内容だと言えるだろう。
成瀬作品は、まだ1、2本しか見たことがないので、その特徴を把握していないが、きょう見たところでは、細部に非常にこだわる監督だなという印象を受けた。びっくりしたのは、夫婦が住まう長屋の朝の風景の冒頭場面。小さな小学生が、母親に見送られて家を出たところで転ぶ、会社員が妻に見送られ会社にでかけるところ、弁当を忘れて妻が慌てて手渡す、この一連のシーンが、映画の中盤あたりで、そっくりそのまま挿入されている。この場面の反復は、代わり映えのしない日常生活が繰り返されていることを強く印象づけるだろう。反復する日常に埋没してしまう自分に、不安や焦りを感じているのが原節子なのだが、同じ場面の繰り返しというのは、日常というものがいかなるものであるのかを表象していると思われる。