三島由紀夫『中世・剣』

三島由紀夫『中世・剣』講談社文芸文庫、1998年3月
三島の二十代に書かれた作品が主に収められている。収録作品は、「中世」(昭和21年)、「夜の支度」(昭和22年)、「家族合せ」(昭和23年)、「宝石売買」(昭和23年)、「孝経」(昭和24年)、「剣」(昭和38年)。
20代の作品だと、ラディゲの影響が残っているように感じる。たとえば、「夜の支度」の次のような文章などはどうだろう。

 しばらくして自分よりはるかに烈しい頼子の動悸を、彼はまずふしぎな不安と嫉ましさを以て感じている自分に気づいた。頼子にとって最初のものである接吻が、芝にとって最初のものではないからとて、彼が頼子を非難する理由になろうか。(p.68)

「……とて、……になろうか」という語り口は、ラディゲの翻訳本で見かけそうな文章だと思う。というか、ラディゲの文章に対する私のイメージが、「……とて、……になろうか」というものなのだ。こういう語り口を見ると、私は勝手にラディゲっぽいなと感じてしまう。実際、ラディゲの文体ではないかもしれない。
ほかに、剣道を扱った小説「剣」がとても面白かった。己の理想へひたすら邁進するストイックな男性を描くときの三島は良い。

中世・剣 (講談社文芸文庫)

中世・剣 (講談社文芸文庫)