三島由紀夫『三島由紀夫未発表書簡』

三島由紀夫三島由紀夫未発表書簡』中公文庫、2001年3月
ドナルド・キーンへの書簡97編を収めた本。昭和31年から死の直前の手紙まである。これらの書簡から、いかに三島がドナルド・キーンを信頼していたのかが理解できる。文学研究者としても翻訳者としても、三島はキーンを信頼していたのだ。
三島は、死の直前にキーンに宛てて、こんな手紙を書いている。

小生たうたう名前どほり魅死魔幽鬼夫になりました。キーンさんの訓讀は学問的に正に正確でした。小生の行動については、全部わかつていただけると思ひ、何も申しません。ずつと以前から、小生は文士としてではなく、武士として死にたいと思つてゐました。(p.197)

これは、まあなんとも痛ましい手紙だなと思う。昭和45年あたりの手紙は、楽しく近況を報告しつつも、どこか暗い影がつきまとっていて、しかも何かを諦めたような雰囲気もある。しかし、キーンを最後まで頼りにしていて、「豊饒の海」は全4巻の翻訳がきちんと出るように最後にお願いしている。三島は、「暁の寺」が批評家に冷遇されて、日本の批評家を「無知」だと諦めていた。その一方で、世界ではきっと認められるだろうと、それを楽しみにしているとまで書いている。