成瀬巳喜男『妻の心』

◆『妻の心』監督:成瀬巳喜男/1956年/東宝/99分
高峰秀子小林桂樹が夫婦役で登場。古くからの薬屋を営む家を守っているのだが、経営が思わしくないので、あいている土地に喫茶店を作ることを計画する二人。資金面に苦労しているところに、かつてこの家を飛び出し、東京でサラリーマンをやっている長男がやってくる。この長男の会社が潰れたため、新たに商売をはじめるつもりで家に戻ってきたのだった。そして、その商売のための資金を弟夫婦に頼む、という筋書きなのだが、お金をめぐって家族の間がぎくしゃくする様子を、成瀬は見事に表現している。
弟夫婦は喫茶店をやりたいのだから、もちろんお金など貸したくない。長男側は、お金がなければ、仕事を失った今、どうすることもできない。お金をめぐる駆け引きがはじまる。家の中は、緊張感が走り、些細なことで衝突が起きそうな雰囲気。このとき、長男夫婦の娘が鞠つきをして遊んでいる場面がある。トントントンというボールをつく音だけが、家のなかに響いている。このノイズの使い方がすばらしい。