豊田四郎『花のれん』

◆『花のれん』監督:豊田四郎/1959年/宝塚映画/129分
原作は山崎豊子。出演は、淡島千景森繁久彌乙羽信子など。この映画は、『暖簾』の女性版と言える作品。『暖簾』の吾平も商いに生涯をかけた人物であったが、この『花のれん』の主人公の多加(淡島千景)も、商いに人生のすべてをかける。
多加の夫(森繁久彌)は、自分は商いに向かないと言って、寄席通いばかりして、とうとう借金で店を売ってしまう。そして、どうしても寄席通いが止められないというなら、いっそのこと寄席を始めたらいいと多加が提案し、二人は場末の寄席を買い、寄席商売をはじめる。多加の活躍で、少しずつ寄席が流行出す。そんなとき、夫は急死してしまう。この時、多加は人生を商いに捧げることを決意する。多加の熱意によって、やがて寄席は大当たり。芸人が百人を越える大きな寄席を経営するようになるが、一方で家族すなわち一人息子の久雄の面倒を見ることができない。また、多加にはひそかに思いを寄せる男性(佐分利信)がいたが、その思いを押し殺してまでも商いに執着する。
やがて戦争になり、息子の久雄は出征する。久雄は、商いに没頭しなんでもお金に換算してしまう多加に厭気がさし、もし生きて帰ってきても多加の商売を継ぐつもりはないことを言い残していく。その後、久雄から手紙があり、束の間親子の対面を果たすが、久雄の忠告も空しく多加は、商いを何が何でも守ることを言い放つ。その夜、大阪に空襲があり、久雄を残して、慌てて自分の寄席に帰る多加。だが、寄席は空襲ですべて焼けてしまう。焼け跡で、久雄の恋人(司葉子)と出会い、彼女に励まされた多加は一から出直すことを決意したところで物語は終わる。
この映画は、淡島千景の演技が見所なのだが、感情の高まった時に見せる手の鋭い動きがとても印象的だった。たとえば、夫は妾宅で急死する場面。その家に駆けつけた多加は、妾の女性にお葬式に出させて下さいと頼まれるが、スパっとこの妾の頬を叩き、その願いをはねつける。この平手打ちの鋭さは、あまりの鮮やかさに驚かされる。また、久雄の出征を見送った場面で、それまで多加に代わって久雄の面倒を見てきたお梅(乙羽信子)と言い争いをするのだが、この時多加は着物の上に着ていた割烹着を脱いで、脇にスパッと投げ捨てる。平手打ちの時と同様に、手を水平に鋭く動かす。淡島千景のこの手の動きが素晴らしい。