成瀬巳喜男『あらくれ』
◆『あらくれ』監督:成瀬巳喜男/1957年/東宝/121分
原作は徳田秋聲。『あらくれ』(ISBN:4101012024)は秋聲の代表作といえる作品で、「た」止めばかりを使った独特の文体が面白い小説である。主人公の「おしま」を高峰秀子が演じていて、その女性と絡むのが上原謙であり森雅之であり加東大介といった男優たちだ。特に、高峰秀子と森雅之の組み合わせは『浮雲』を思いだしてしまう。『浮雲』では高峰秀子のほうが死んでしまう役なのだが、この映画では森雅之のほうが死んでしまう役なのも面白い。
『浮雲』を思い出したのは、ただこの二人が出演しているからだけというわけでなくて、この映画でも主人公の「おしま」は、一つのところに定住することができず、たえず移動を強いられる存在であるからだ。たぶんに、成瀬の代表作に『流れる』というタイトルの映画があるのだが、成瀬は「流れ」ざるを得ない人の人生を描くのが多い。故郷や家から疎外され放浪することになっても、それでも力強く生き抜いていく人たちに成瀬は共感しているのではないか。
この映画の見所は、そんな力強く生き抜く「おしま」を演じた高峰秀子の演技だ。夫と取っ組み合いの喧嘩をする場面など迫力がある。