熊谷久虎『智恵子抄』

◆『智恵子抄』監督:熊谷久虎/1957年/東宝/98分
原作はもちろん高村光太郎。出演は、原節子山村聡原節子が智恵子役で、山村が光太郎役。原節子が、智恵子を見事に演じている。ちなみに、監督である熊谷久虎は、原節子の義兄にあたる。
光太郎との結婚生活と自分の芸術活動、さらに故郷の家族との間で苦しむ智恵子が、徐々に精神を病んでいく。病んだ智恵子を一生懸命に理解しようとする光太郎。二人の愛を描く。智恵子の「狂気」あるいは文学的には「白痴」と言ったほうがふさわしいのかもしれないが、こうした面を原節子がうまく表現していた。原節子という女優が持っている純情で清潔なイメージが、この役柄にうまく活かせていると思う。原節子の純粋性というイメージが、智恵子の純粋性とぴったりと重なるのだ。原節子の表情がすばらしい。精神を病んで以降に見せる、屈託のない子どもような笑顔は、純粋無垢であると同時に「狂気」もはらんでいるというこの二重性。この二重性を表現することができたのは、原節子という女優のイメージに他ならないと思う。その意味で、智恵子の役に原節子を選んだ時点で、この映画は成功したようなものだ。