成瀬巳喜男『女人哀愁』

◆『女人哀愁』監督:成瀬巳喜男/1937年/PCL=入江プロ/74分
やはり成瀬はすばらしい。吉村公三郎も女性映画を撮るのがうまいが、私は成瀬が撮る女性映画のほうが良いと思う。
この映画の素晴らしいのは、見合い結婚した女性(入江たか子)が、その家でまるで使用人のように家事を行う場面だ。父や母、妹や夫からいろんなことを頼まれる。そしてそれを淡々とこなしていく入江たか子。この場面では、短いカットを繋いで、入れ替わり立ち替わりに、次々と用事が舞い込んでくる様子をしつこいぐらいに描いている。そして、次から次へと用事を頼まれる入江たか子の様子から、次第に深刻さが薄れ、逆にコミカルになっていく。弟に宿題を教えてあげようとする度に、電話が鳴ったり、お客がやってきたりして、その都度小さな弟が放って置かれる場面など非常に面白い。この映像手法は見事だ。
新藤兼人なら、こういう場合、女性の辛い立場をただ深刻に描き出すだけで、おそらく笑いなど作り出せないだろう。新藤は女性を抑圧する社会を告発することだけしか念頭にないからだ。だが、成瀬はそれだけでは終わらない。成瀬のほうが、新藤よりも一枚も二枚も上手だ。映画というものを理解しているのは、まちがいなく成瀬なのである。